サブリース契約の解約に関する勘違い

 収益用不動産の運営に関し、よく相談されるのが「サブリース契約の解約」に関する内容です。

 収益用不動産の購入を不動産会社に相談すると、サブリース契約付きの物件を紹介されることがあります。サブリース契約のない物件を紹介された場合でも、サブリース契約の締結を勧められることがあります。

 サブリース契約とは不動産管理会社等のサブリース事業者が収益用不動産を丸ごと借り上げ、管理業務を全て行い、空室の有無にかかわらず一定の家賃をオーナー様に支払うことを内容とする契約です。

 オーナー様が受け取れる賃料は、全ての居室が満室になった際における家賃収入の約8割です。空室が生じても、オーナー様は一定額の家賃収入を得られることから金融機関の心証が良くなります。

 このため、事業用ローンを利用して賃貸住宅の運営を行おうとする方、特に収益用不動産を初めて購入する方がサブリース契約の締結を勧められている感があります。

サブリース契約は簡単に解約できない

 最も大きな問題は、簡単に解約できないことにあります。サブリース契約の実体は賃貸借契約です。サブリース事業者は「借主」として借地借家法により保護されます。

 このため、借地借家法が規定する「正当事由が存在する場合」、「賃貸人および賃借人相互の信頼関係が破壊されたとき」でなければ賃貸借契約であるサブリース契約を解約することはできません。具体的にはサブリース事業者が家賃をオーナー様に支払わない場合が該当します。

 その他の理由によりオーナー側から解約する場合は、オーナー様が高額な違約金をサブリース事業者に支払う義務があります。このことはサブリース契約の契約条項に定められていることがほとんどです。

本題

 今日の本題は、「サブリース契約の解約に関する勘違い」です。現在、街中の人出は少しずつコロナ禍になる前の状況に戻りつつあります。しかし、コロナ禍の前と比較するとかなり少ないです。

 最近、金融機関が行った緊急融資の返済期限が到来したとして数多くの企業、及び個人が融資した資金の返済を求められています。手持ちの現金だけでは返済できないとして、数多くの企業及び個人が所有する収益用不動産の売却を検討しています。 

 サブリース契約が締結されている物件における家賃収入は、サブリース契約を締結していない物件における収入の約8割です。収益用不動産の売買価格は家賃収入および利回りにより決まります。このため、サブリース契約が締結されている物件は、同契約を締結していない物件の約8割の価格で売却することになります。

 これでは売却時に大きな損失が発生するとして、「サブリース契約を解約できないか。」について相談される方がいらっしゃいます。

勘違いの内容

 物件の売却に際して締結される売買契約書の特約に「サブリース契約の解約条項」を定めることで解決できると考える方がいらっしゃいます。

 特約条項によりサブリース契約を解約でき、高く売却できると考えているのでしょうが、間違いです。売買契約が締結されても、売買契約における特約がサブリース契約に優先することはありません。不動産会社の社員でも誤った理解をしている方が散見されます。

 収益用不動産の売買が行われた場合、サブリース事業者と所有者との間に締結されているサブリース契約は存続します。新しい所有者がサブリース契約の解約を申し出ても、サブリース事業者には解約の申し出を断る権利があります。借地借家法は借主を強く保護しているところ、サブリース事業者は「借主」なので強く保護されます。

 サブリース契約の解約を求めると、多額の違約金を請求されます。必要な違約金は、満室時における賃料収入の6~12か月分相当額になることが多いです。かなりの金額になるので、サブリース契約を解約することなく相場の8割程度の金額で泣く泣く売却される方が多いです。

どうすればよいか

 「本業が忙しいので収益用不動産の運営に時間を割けない。」とか「金融機関の心証を良くしたい。」などの理由でサブリース契約を締結する方が多くいらっしゃいます。しかし、サブリース契約付きの物件を購入すると相場での売却ができません。

 サブリース契約には「空室が生じても一定額の家賃収入がある。」、「入居者が退去しても次の入居者募集を気にする必要がない。」、「管理を全て代行してもらえる。」等の利点があります。しかし、サブリース契約が締結されている物件の価値は、同契約が締結されていない物件における価値の約2割も低くなります。

 将来において物件を高く売却したい場合は、サブリース契約が締結されている物件の購入はお勧めしません。同様に、サブリース契約が締結されていない物件を購入する際にサブリース契約の締結を勧められても断るのが賢明です。