マイナス収支の収益用不動産、「後から家賃を上げれば良い」は誤り

 収益用不動産について筆者が相談を受ける案件で多いのは「マイナス収支の収益用不動産を購入した。家賃を上げられないか。」というものです。

 相談者の多くは、都心にある築浅で表面利回り4%程度の1棟マンションを購入しています。

 現在、都心における収益用不動産の利回りは極限まで低下しています。東京都区内における物件の大半は表面利回り3~5%の物件ばかりです。

 物件の紹介を受けた際に、不動産会社の営業担当に利回りが低いことを指摘すると、「利回りはどうにもなりません。」と言われることが大半です。

 さらに「マイナス収支でも家賃を値上げして収支をプラスにできます」、「皆さん、そのようにしています」等と言われるようです。明らかにウソなのに「そうすれば良いのか」と納得し、マイナス収支の物件を購入してしまい、対応策を筆者に相談しています。

 誰でも社名を知っている超大手の不動産会社でも、このような粗雑なセールストークが使われているとの話を聞いています。大手不動産会社の営業担当は歩合制給与により雇われています。「購入させるためにはウソをついても構わない。」と考える営業担当者の中には、このような粗雑なトークを展開する者がいます。

 しかし、「後からの家賃値上げ」は非常に困難です。借主から見た場合、家賃や管理費等の賃貸条件があらかじめ決められている物件に入居しています。賃貸借契約の締結後に「家賃を値上げしたい」と言われても応じてくれることは極めて稀です。

 賃貸借契約では社会的状況が著しく変化した場合に家賃を変更できる旨が記載されています。しかし、「マンションの所有者が変わった」とか「円安で物価が高騰している」等は著しい社会的状況の変化とは言えません。

 「マイナス収支であるから値上げしたい」とお願いしても、「オーナー様における個人的な事情に過ぎない」と一蹴されるだけです。

 不動産の購入時に営業担当から提案される「後からの家賃値上げ」は極めて困難です。普通賃貸借契約の場合、契約更新時に値上げを求めることが一応は可能です。しかし、借主が大幅な値上げに納得してくれることはまずありません。特に10%以上の値上げは著しく困難です。

 仮に承諾してくれても、家賃保証会社の審査を通過出来ない場合があります。付近の賃料相場よりかなり高額な賃料になるのであれば、審査はNGになります。

 都心にあり、立地が良くて予算内に収まる物件でも、マイナス収支の物件は購入を避けるべきです。営業担当から「家賃を値上げすれば良いです」等と言われたら、商談の打切りを強くお勧めします。