競売物件、強制執行の取り下げを依頼されても応じないこと

 地方裁判所が開催する不動産競売において、不動産を初めて落札した方が犯しやすい判断ミスは強制執行の取り下げです。

 不動産競売では、明け渡しの交渉を落札者が自ら行う必要があります。購入した物件の所有権移転登記を備えた後でも、前所有者が退去に応じないことがあります。「競売になった理由が納得できない。」とか「無職なので転居先を借りられない。」、「膨大な家財を収納できる貸家が見つからない。」等の様々な理由を付けて居座ることがよくあります。

 どうしても退去に応じず、新所有者(落札者)を脅してくる輩がたまに存在します。このような場合は裁判所に強制執行を依頼することになります。

 強制執行を依頼すると、2週間~1か月程度で執行官が現地に赴き(催告)、約1か月後に強制執行(断行)を行う旨を通知します。その際には新所有者および立会人、執行補助者(裁判所が認めた引越業者)も同伴します。

 退去に向けた交渉は、強制執行(断行)が行われるまで続けられることが多いです。断行を実施すると家財を搬入する倉庫の費用、運搬する車両費、作業員の日当、その他の多額の費用が発生するからです。

 交渉をしていると「退去に応じるので強制執行の依頼を取り下げてください。取り下げをしてくれれば直ちに退去します。」等と言われることがあります。

 不動産競売の初心者は「早く明け渡して欲しい。」、「費用を節約したい。」等と考え、この交渉条件に応じがちです。しかし、この提案には絶対に応じてはいけません。

 強制執行を取り下げると撤回できません。退去に応じないからといって強制執行を再度実施するように裁判所に求めても、裁判所は応じません。

 「退去に応じるので強制執行の依頼を取り下げてください。」という言葉は、「何が何でも絶対に退去しない。」という意思表示をしているものと解釈するべきです。強制執行を取り下げると、前所有者はほぼ例外なくいつまでも居続けます。

 強制執行を取り下げた物件で再び強制執行(断行)を実施してもらうためには明け渡し請求訴訟を提起して勝訴する必要があります。当然ですが不動産競売の実施後に何故強制執行を取り下げたのかが問題になり、場合により裁判は長期化します。勝訴判決を得るのに1年以上を要することがあり、莫大な裁判費用が発生することがあります。

 競売において前所有者から「強制執行を取り下げてくれたら直ちに退去します。」と言われた場合は交渉を直ちに打ち切り、断行を行うべきです。