競売購入物件、元所有者が鍵を一部しか渡さない場合

 地方裁判所が開催する不動産競売において競落した場合、債務者や占有者(元の所有者)に退去を求める必要があります。最初は競落した買受人が退去に向けた交渉を自ら行う必要があります。交渉の過程で債務者や占有者が不合理な内容を要求することがあるので注意が必要です。

 よくある要求は「鍵は一本しか渡せない。今後、何回かに分けて私物を搬出したいのでスペアキーは渡せない。」というものです。

 「なぜ何回も分けて搬出するのか。引っ越し業者を利用すれば一度で済む。」と告げると「引っ越しトラックの費用を捻出できないから。」等と言われることがあります。

 このような場合にスペアキーの所持を認めると、後で大変なことになりかねません。競落した買受人と占有者(元の所有者)が建物に立ち入れる状態になると、占有者が「私物の紛失」を主張することがあります。買受人に対し「私物の宝石がなくなった。返してほしい。」等と主張し、買受人が訴えられることがあります。

 スペアキーの所持を認めるように要求する行為は、後で多額の和解金を支払わせるための準備行為であることがあります。したがって、絶対にスペアキーの所持を認めるべきではありません。

 スペアキーの鍵を渡さない場合は、不動産の占有は依然として元の所有者にあります。この状態がしばらく続くと、多くの場合に買受人は錠前を交換したくなります。しかし、交換すると占有者から「占有権を侵害された」とか「私物がなくなった」などと騒がれ、訴えられる原因になります。

 どうしてもスペアキーの引渡に応じない場合は相応の費用が発生しますが、裁判所に強制執行を依頼することをお勧めします。この場合、強制執行の実施前に錠前を自分で交換することは絶対に避けてください。

 錠前を交換する行為は「占有を自力で獲得する行為」と評価されます。したがって、錠前を交換すると裁判所は「占有を自ら取得しているので執行不能」と判断します。つまり、買受人が強制執行手続きを申請しても却下されます。

 強制執行の「断行」を行うと、建物内にある占有者の家財は全て搬出されます。さらに裁判所に出入りしている鍵の専門業者が錠前を新しいものに交換します、そして裁判所の執行官が「不動産の占有は競落人に移転した」旨を執行調書に記載します。

 占有者や債務者(元の所有者)がスペアキーの引渡を拒む場合は迷わず強制執行をお勧めします。