不動産を早期に売却できない11のパターン

 筆者の会社では、不動産に関する悩み事がある方向けの無料相談を行っています。
 相談される内容で多いのは、「不動産の売却を不動産会社に依頼したものの、半年以上経っても売れないので困っています。不動産会社から物件価格を下げることを勧められていますが、下げた方がよろしいでしょうか。」というものです。
 なかなか売却出来ない場合、不動産会社から価格を大きく下げることを求められることが多いです。確かに価格を下げることにより早く売れる場合があります。
 しかし、売れ残る原因は価格ではないことがあります。それにもかかわらず値下げの求めに応じると数百万円、場合により数千万円以上の損失につながることがあります。
 売れ残る原因は価格の高さではないことがあります。原因を一つずつピックアップし、解消できるものがある場合は一つずつ解消しないと価格を下げても意味がありません。
また、少し工夫するだけで早期の売却が可能になることがあります。
 本日は売却出来ない原因を11個ピックアップして解説します。早期に売却する方法がある場合は、それも併せて解説します。

●売却出来ない理由
その1:売却を依頼する不動産会社を間違えている
 駅前、老舗、従業員が多い、物件に近い等を基準にして売却を依頼する不動産会社を選ぶ方がいます。
 不動産会社には専門分野があります。不動産の売買および売買仲介に特化している会社、賃貸物件の管理および賃貸仲介をのみを行っている会社、建物を建築して販売する会社などがあります。
 不動産賃貸および管理を専門としている不動産会社であっても不動産の売却を依頼すれば売却を引き受けてくれると思います。
 しかし、販売方法に関する知識が乏しいことが良くあり、販売活動をほとんど行わないまま放置されることがあります。
 このことが売れ残る原因であっても、不動産会社から値下げを勧められることがあります。
 このような場合は値下げに応じても売れ残る可能性が高いので、売却を依頼する不動産会社を変えるしかありません。
 売却を依頼する不動産会社を決める場合は、得意とする分野が何であるかを予め調べることをお勧めします。
 ネット検索で会社のWEBサイトを参照することにより、その会社が何を得意とする会社なのかがわかることが多いです。

その2:一括査定サイトを利用し、最も高く査定した不動産会社に売却を依頼している
 一括査定サイトにおける最も高額な査定価格は、市場価格を大きく上回ることが多いです。酷い場合は市場価格に3割以上も上乗せした金額が提示されることがあります。
 ちなみに査定結果を提示した不動産会社が財閥系または鉄道系の大手である場合も安心できません。大手の査定結果であっても全面的に信用することはお勧めしません。
 一括査定サイトで最も高い査定価格を付けた不動産会社に、その査定価格での売却を依頼すると、多くの場合に売れ残ります。売れ残ると不動産会社は価格の引き下げを求めます。
 しかし、価格をどのくらい下げれば良いのかが問題になります。
 この場合はネット上のポータルサイトなどを利用し、付近の物件における価格を調べ、おおよその市場価格を把握します。この価格まで値下げすれば売却出来る可能性が高くなります。
 不動産会社からそれ以上の値下げを要求されても、直ちに応じる必要はありません。市場価格における販売活動を行ってもらうことで構いません。

その3:売却希望価格が市場価格より高額
 売主が希望する売却価格を不動産会社に伝え、その価格での売却を依頼すると長期間売れ残ることがあります。
 物件に対する愛着が深い売主は「安い物件ではないはず」との想いが強く、高値を付けがちです。
 しかし、売主が自ら決めた価格が市場価格を超えていると、長期間売れ残る原因になります。
 購入希望者はネット検索を通じ、物件および相場に関する詳細な情報を得ています。目が肥えており、市場価格より高額な物件は購入を見送ります。
 売却希望価格を決める際はポータルサイトなどを利用し、付近の物件の価格を参考にしておおよその市場価格を調べることをお勧めします。わからなければ不動産会社に相談することをお勧めします。

その4:数多くの不動産会社に対し、売却を同時に依頼している
 数多くの不動産会社に対し、売却を同時に依頼して競争させれば早く売却出来ると考える売主が多いです。
 しかし、同じ物件に関する情報がポータルサイト上に数多く表示されるようになります。
 複数の不動産会社が同じ物件に関する広告を数多く掲載すると、購入を検討している方は「何らかの問題があるために売れ残っている」と誤解します。その結果、売却期間が長期化します。
 また、複数の不動産会社に対し同時に売却を依頼した場合、個々の不動産会社としては売却活動に十分な広告費用をかけることが困難です。
 自社で成約できる保証がない物件に高額の広告費をかけても回収できない恐れがあるからです。
 売却を依頼する不動産会社は少なくすることをお勧めします。
 可能であれば1社のみに依頼すると十分な販売活動を行ってくれることが期待できるため、早期の売却を期待できます。

その5:ローンの残債務が大きすぎる
 購入金額の全額に対する融資を受けるためにノンバンク等を利用したことからローンの利率が高く、毎月の返済額が高額になる物件があります。毎月の返済額が多額なので売却したいとの相談を受けることがあります。
 特に新築の物件を購入し、購入金額の全額について融資を受けた方からの相談が多いです。
 新築物件は「新築」であるという点に価値があるので、購入直後に価値がある程度下がります。
 売却したいと思った時点における市場価格は、新築で売られていた価格を大きく下回ることが多いです。
 売却する際は、市場価格に設定しないと売却出来ません。しかし、残債務が市場価格を超えることがよくあります。このような場合は売主が損切りをしないと残債務を解消できません。
 売主が損切りを行う場合は手持ちの現金が必要です。しかし、手持ちの現金がなく損切りができない場合があります。
 損切りができないからといって、売り出し価格を市場価格よりも高めにして売り出しても誰も購入しない可能性が高いです。
 ローンの返済が進み、残債務が市場価格未満になるまで保有し続けてもらう必要が生じることがあります。

その6:物件の立地または周辺の環境に問題がある
 立地に問題がある物件は売却しにくいです。
 以下の物件が具体的な例になります。

  • 最寄り駅や商業施設から離れている物件
  • 最寄り駅から急坂を登った先にある物件
  • 擁壁があり、物件に出入りするために階段の上り下りが必要になる物件
  • 土砂災害警戒区域内、または津波災害警戒区域内にある物件
  • 墓や葬祭場、騒音が酷い工場、ゴミ処理施設の近くに立地する物件
  • 鉄道の線路際や踏切の近くにある物件
  • 光回線が開通していないエリアの物件

 これらの物件は、価格を下げることにより早期の売却が可能になることが多いです。

その7:土地の状態や接道に問題がある
 狭小地、変形地、旗竿地(細長い通路の奥にある土地)などは建築プランが限られます。このような土地は購入希望者が少なく、売却に苦労することがあります。しかし、価格を下げることにより売却できることが多いです。
 市街化区域の場合、前面道路の幅員が4m(エリアにより6m)以上あり、かつ2m以上接道していなければ建築不可とされています。他人の土地を通らないと物件から道路に出られない土地も同様です。
 既に建物がある、再建築不可の土地は価格を大きく下げることにより売却できることがあります。
 しかし、再建築不可の土地なので、売却に要する期間は長期化しがちです。
なお、建築基準法第43条第2項により、一定の条件を満たす場合は特定行政庁における建築審査会の許可を得ることにより建物の建築が可能になることがあります。
 建築不可の土地は資材置き場や駐車場としての利用価値しかありません。価格を大きく下げても長期間売れ残ることがあります。

その8:築古の建物
 築年数が古い建物は多額の修繕費用を要することがあります。
 また、昭和56年(1981年)5月以前に建築確認申請が行われた物件は旧耐震基準により建築されていることから耐震性能が弱いです。地震の際に相応のリスクがあるので敬遠されがちです。
 旧耐震基準で建てられた木造の建物である場合は建物を取り壊し、土地として売却する方が早く売れることがあります。

その9:ローンが否認される物件
 市街化区域において建物を建てる際、または増改築を行う際に建築確認申請または完了検査を行わなかった物件があります。しかし、これらの物件を購入する際に住宅ローンまたは事業用ローンを利用したくても金融機関から否認されることが多いです。
 ただし、建物の建築時に完了検査まで行ったものの、増改築が無届である物件は、増改築を行う前の状態に戻すことによりローンを承認されやすくなります。
 金融機関が融資に応じず、買い手が購入資金を調達できない場合は売却が難しくなります。
 ノンバンクの中には融資に応じるところがありますが、利率が高いので買主が敬遠しがちです。
 多くの場合、現金一括で購入できる買い主を探すことになりますが、売却はどうしても長期化しがちです。

その10:非公開での売却にこだわっている
 売却活動を非公開で行うように求められることがあります。レインズやインターネット広告の掲載を一切行わないように求められるわけですが、販売活動が大きく制約されるので売却に要する期間は長期化します。
 売却したい不動産が自宅の場合は、近所の目を気にして非公開での売却を求められることが多いです。
 しかし、なかなか売却出来ない状況になりがちです。このことと比べると、非公開にするメリットはあまりありません。
 非公開にするのがふさわしいのは、売却価格が市場価格の7割程度になったとしても不動産買い取り業者に大至急買い取ってもらいたい場合です。
 多くの場合に買い取り業者は他の業者に転売しますが、買い取り価格を知られることを嫌います。
このため、非公開の物件を求めます。
 なお、1棟マンションやアパートなどの収益用不動産の場合は、物件の売り出し情報がインターネット上に公開されると入居者が動揺して退去することがあります。また、売主が法人の場合は経営状況が悪化しているから売却する等の噂が立つことがあります。
 このため、収益用不動産の売却活動を非公開で行うことについてはメリットがあります。ただし、売却には相応の期間を要することが多いです。

その11:いわゆる「囲い込み」が行われている
 両手取引にするため、物件情報をレインズに掲載するものの、他の不動産会社から物件に関する問合せがあっても「申込みがあります」等の嘘を言い、不動産仲介会社を経由しないお客様が自社に現れるまで何ヶ月も放置します。質の良くない営業担当が行う行為ですが、これを「囲い込み」と言います。
 自社に直接問い合わせたお客様に物件を紹介して成約させ、売主および買主の両方から合計で2倍の仲介手数料を得ること、すなわち両手取引にすることを狙ってこのような行為が行われることがあります。
 囲い込みが行われると、売却期間の長期化に繋がります。
 対策は、売却を依頼する際に「囲い込み」を行わないように強く要望することです。
 さらに、売主においてレインズおよびポータルサイトに物件情報が掲載されていることを確認します。
 また、「囲い込み」を防ぐため、自宅を売却する際は非公開での売却を求めないことをお勧めします。