不動産売買契約を解除した場合の仲介手数料および違約金

私の会社のお客様に、自宅の購入を真剣に検討されている方がいらっしゃいました。お客様の職業は飲食店の経営者です。何年もかけて貯めた貯金を頭金にして購入したいということで相談を受けていました。

ところが、コロナ禍によりお客様の飲食店における客数が激減し、売上げは1年前の2割にも満たない状況になりました。貯金のほぼ全額をを飲食店の維持費に回さなければならなくなったので自宅購入の話を無期限に延期したいとの申し出がありました。

このような例はかなり多いようです。このお客様は契約前に購入を断念したので税金や仲介手数料はかからず、手付金も支払っていなかったので問題なく延期の申し出を受けることが出来ました。

しかし、今後は企業の倒産や廃業、解雇、賃金カットの多発が想定されます。売買契約が締結された後に契約が解除された際の手付金、違約金、仲介手数料をどのように扱うかが問題になります。

具体的には、会社勤めの方が自身が居住する目的で自宅を購入することにし、売買契約を締結した後に勤め先が倒産した、解雇や賃金カットを受けた等の理由により、自宅の購入を断念しなければならなくなった場合における手付金、違約金、仲介手数料の要否に関する問題です。

民法第557条は、買主は手付金放棄により契約を解除できることを定めています。

(手付)
第五百五十七条
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。

(解除の効果)
第五百四十五条
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
民法-手付、解除の効果

勤め先の倒産や解雇、賃下げにより不動産売買を断念して契約を解除する場合、この解除は自己都合による解除となります。契約の際に手付金を支払っている場合、この手付金は放棄する必要があります。

「勤め先の倒産や解雇されることについて、買主には責任がない」とお考えの方がいらっしゃるかもしれません。しかし、「不動産を購入する行為」は自己の責任において行う行為ですから、一旦締結した売買契約を解除する際には手付金を放棄していただくことが必要です。

例外になりますが、住宅ローンを利用して購入される等の(ローン特約がある)場合において、金融機関がローンの審査を否決した場合には買主は売買契約を無条件で解約することが出来ます。この場合、手付金は買主に返還されますし、仲介手数料も支払う必要はありません。ただし、契約書に貼付する印紙代金は返還されません。

手付金放棄による契約解除、および住宅ローン審査が否決された場合の契約解除についてはある程度知っている方が多いと思いますが、違約金および仲介手数料を請求されるかについては、あまりよく知られていないようです。

違約金を支払う必要があるか
手付金は物件価格の5~10%、違約金は20%に設定されることが多いです。民法第557条第1項は、相手方が契約の履行に着手した後は、手付金の放棄では契約を解除できないことを定めています。この場合は違約金の支払いが必要であり、金額は手付金の2~4倍になります。

「相手方が契約の履行に着手した後」とは具体的にいつまでを意味するのかが問題ですが、中古住宅を現状で購入する際に問題になることはないと思います(後述する場合を除く)。

しかし、新築の注文住宅を発注して工事を開始したとか、建売住宅または中古住宅を購入する際にオプションで何らかのリフォームを行った場合は、いつまでなのかを考える必要があります。

例えばキッチンユニットが故障している中古住宅において、売主負担で新しいキッチンユニットを購入して設置すること、および新しいキッチンユニットの選定は買主が行うことが合意され、売買契約の締結後に買主が新しいキッチンユニットを選定して入れ替え作業を開始した場合は、この入れ替え作業の開始後が「相手方が契約の履行に着手した後」となります。

このような場合は、手付金の放棄だけで売買契約を解除することは認められず、違約金の支払いが必要になります。買主が売主に手付金を支払っている場合、買主は違約金との差額を売主に追加で支払う必要があります。

以上の例とは別に、予め定めた期日が到来することにより「相手方が契約の履行に着手した後」と見做す内容の契約が締結されることがあります。この場合は、予め定めた期日以後の契約解除には違約金の支払いが必要になります。

仲介手数料を支払う必要があるか
仲介手数料は、税抜き物件価格の3%に6万円を加算した金額に、消費税を加算した金額になります。
(物件価格400万円以上の場合)

売買契約を解除する際に手付金放棄、違約金支払のいずれかを行う場合でも、仲介手数料の支払いは別途必要です。

ただし、後述する判例により、決済まで至った場合(契約を完全に履行できた場合)に請求される金額の全額を支払う必要は無いと解されます。

不動産会社は重要事項説明書、売買契約書、物件引渡確認書等を作成し、売主側の不動産会社では広告の掲載を停止し、決済日の段取りの決定、司法書士への連絡とスケジューリング等を行っています。当然ですが費用が発生しています。

売買契約が成立している以上、その後に契約の解除を申し出られたとしても仲介手数料の請求は正当な行為であり、複数の判例が請求を認めています。ただし、決済まで至った場合(契約を完全に履行できた場合)に請求される金額全額の請求は認めていません。

ちなみに東京地判平23.1.20は決済まで至った場合に請求できる仲介手数料の半額に約25%を上乗せした金額を妥当な金額として判示しています。また、福岡高判平15.12.25は、決済まで至った場合に請求できる仲介手数料の半額が妥当であると判示しています。