不動産売買契約の前後に、売主が新型コロナウイルスに感染した場合(その1)

新型コロナウイルス感染症により翻弄させられている毎日ですが、不動産会社としてはタイトルに記載した問題が発生した場合についても考えなければならない状況です。

今日は、住宅の売主が売買契約を締結する前、または契約後に新型コロナウイルスに感染した際に、どのような問題が発生するかについて書きます。

第2類感染症であることから、このウイルスに感染した場合には入院かホテル療養になることが原則とされ、自宅療養になった場合でも直接会うことはできず、書類のやりとりもできなくなります。

売主が契約の直前に感染した場合
売主が売買契約の締結直前まで居住しており、売主と同居者が契約の直前に感染した場合を考えます。売主に売却の意思がある場合でも、契約の際に立ち会うことが出来ません。

この場合、代理人が選任され、委任状に売主本人の実印が押印され、印鑑証明が提出されている状況であれば、売買契約を成立させることは可能です。しかし、売主の病状が深刻な場合は代理人を選任できないことがあります。それに、契約後に決済するまでに売主の健康状態が悪化した場合には引越が出来ず、さらに司法書士への委任状を売主が作成できないことから、決済ができなくなることが十分に予想されます。

いつ快復するがの予想が難しく、明け渡し時期は不明確になる恐れがあります。特に自宅療養になった場合には入院の目処すら立ちません。

契約前であれば、手付金や違約金授受に関する問題は発生しません。売買契約の締結を延期するか、買主が売主に提出した買付証明の撤回をすることになります。実務上は後者の扱いになることが多いと思われます。

売買契約の締結後、決済までの間に売主が新型コロナウイルスに感染した場合
契約締結後、明け渡し猶予期間を設定して明け渡し日を決め、この日に決済(残代金支払と所有権移転登記)をすることを予定していたとします。

この場合が一番問題です。売買契約が締結されている以上、決済ができない場合には手付金放棄・倍返し、違約金請求の問題が生じます。

売主の病状が深刻な場合は、登記必要書類を売主が揃えられず、引越をしていない場合には家財が屋内に残置されています。本人が快復して自宅に戻らないと引越や決済は出来ません。

売買契約書において何も特約を定めていない場合は、以下の二つのうち、いずれかの対応をすることになります。

1.売主が買主に手付金の倍返しをする、または売主が買主に違約金を支払うことにより売買契約を解約する。
しかし、売主の多くは「自分に落ち度がないのに、手付金倍返しや違約金支払に応じなければならないのは納得できない」とお考えになると思います。

2.決済時期を延期することにし、売主および買主の間で合意書を作成する。
買主としては現在居住している住宅からの引越を遅らせるか、ウィークリーマンションへの一時入居を検討しなければならず、費用が発生します。また、住宅が消毒されるとしても、買主は「感染者が発生した住宅は購入したくない」とお考えになるかもしれません。このため、合意書を必ず作成できるとは限りません。

※対応が難しいので、売買契約書に特約を設けるのが良いかもしれません
特約を設ける場合、その内容は「売主または同居者が決済(または引渡し)前に新型コロナウイルス感染症に感染した場合には売買契約は解除される。この場合、売主は手付金を買主に返還しなければならず、買主は売主に違約金を請求できないものとする。」等になると思います。

※他にも注意しなければならない点があります。明日の投稿に書きます。