不動産を競売で購入する際は要注意(空室または空家の物件 その3)

2024年8月8日

※2024年8月8日追記:競売物件情報サイトのURLが変わりましたので、リンク先を変更しました。

 不動産を競売で落札して購入した場合、通常は物件の引渡しに関する交渉を債務者・所有者(占有者)と行う必要があります。立ち退きに関する交渉をしたいと連絡しても、なかなか返答してくれない強者がいます。

 このような場合は、落札者(買受人)はやむを得ず裁判所に引渡命令の発令を求め、さらに強制執行をお願いすることになります。債務者・所有者の中には近いうちに強制執行が行われることを察してから落札者(買受人)に連絡する方がいます。

 数はそれ程多くないのですが債権者から債務の返済を迫られても返済できないために不動産を強制的に売却されることから自暴自棄になる方がいます。特に、現況が居住中の物件では立ち退き交渉の際に危険が伴うことがあります。このことは、ネット記事や競売の解説本などでご存じの方が多いと思います。

 このため、あえて現況空室の物件に入札する方がいらっしゃいます。現況空室の物件であれば立ち退き交渉が不要になり、強制執行も必要ないとお考えの方が多いので驚かされます。

 現況が空室または空家の物件では、債務者・所有者または占有者が悪質な罠を仕掛けていることがあります。特に、債務者・所有者が反社会的勢力と関係がある場合に、「罠」が仕掛けられていることがあります。

強制執行を実施できないようにするために「罠」が仕掛けられる
 裁判所による強制執行を執行不能にして物件の引渡しを拒み、最終的には落札者(買受人)に明け渡すものの、高額の金銭を要求するために空室または空家にしていることがあります。

 裁判所が不動産の競売実施を決定した場合、裁判所の執行官および不動産鑑定士が物件を調査します。その際には空室または空家に近い状態(財物と言えるものがない状態)にしておきます。古いテーブル等の財産的価値がないものだけを残置していることがあります。すると、現況調査報告書には現況空室または空家として記載されます。この現況調査報告書は、裁判所が運営する競売物件情報サイトからダウンロードできます。

 その後に競売が実施されますが、落札者(買受人)が代金を裁判所に支払うまでの間に、債務者・所有者が家財等の物品を物件内に運び入れ、玄関扉を施錠します。

 落札者(買受人)が代金を支払うことにより所有権は移転します。所有権が移転したということで物件に立ち入ろうとしても施錠されているので中に入れません。ここで、大半の方は鍵屋を呼んでしまいます。このことが「罠」です。鍵屋は、物件の所有者であることの確認が出来れば、扉を解錠し、錠前を交換してくれます。

 部屋、または建物の中には家財道具、その他の物品があります。家財道具等の動産があれば、その部屋や建物の「占有権」は依然として債務者・所有者にあります。落札者(買受人)、またはその依頼を受けた鍵屋が部屋または建物の玄関を解錠した場合、占有権を自力で移転した、つまり自力救済を行ったと見做されます。すると、強制執行は「不能」になり、裁判所は家財道具等を取り除く手続き(動産の処分を認める手続きを含む)をしてくれないことになります。これが債務者・所有者の狙いです。

 家財道具などの所有権は依然として債務者・所有者にあります。産廃業者を呼んで勝手に家財道具を搬出し、廃棄させると、債務者・所有者は落札者(買受人)に損害賠償および慰謝料の請求をしてきます。「美術品を捨てられた」等と主張し、高額な賠償金および慰謝料を請求されることがあります。

 実際に裁判になった事案がありますが、自力救済を行った落札者(買受人)の落ち度は大きいとして、債務者・所有者による損害賠償および慰謝料請求を認めた判例があります。

 また、家財道具などの撤去に応じず、「勝手に撤去したら損害賠償を請求するからよろしく。」等と告げられることがあります。明け渡しには応じるものの、100万円~1000万円超の金銭を渡すように要求してくることがあります。このような場合でも、警察は「民事不介入」なので、対応してくれることはありません。

 この場合、落札者(買受人)は、不法占有者として退去を求める裁判を提起することになります。裁判費用がかかりますし、判決が確定するまでにはかなりの長期間を要します。和解による解決になることがありますが、落札者(買受人)がかなりの金額を負担しなければならないことが多くあります。落札者(買受人)にとっては理不尽ですが、「罠」に落とされた以上、仕方ありません。

現況空家(空室)の物件を競売で落札した際は強制執行をお勧めします
 強制執行には費用が発生しますが、「罠」に陥らないようにするためには仕方ありません。

 強制執行は、催告および断行の2回に分けて行われます。催告の際に、室内に残置されている動産がない、または無価値の物しかないと認められる場合は、執行官がその場で占有の移転を宣言し、動産の処分を認めます。

 何らかの価値がある動産が残置されている場合は、その1か月後に断行の手続きに入ります。断行の際は、残置されている動産の全てを、予め手配した倉庫に移動します。搬出が完了した時点で鍵屋が錠前を交換し、執行官が占有の移転を宣言します。

 倉庫に搬入された動産は約1か月保管されます。債務者・所有者が引き取らない場合は動産競売にかけられ、最終的には落札者(買受人)が廉価で購入し、廃棄することになります。

 なお、引渡命令の申し立てをすると、その旨の連絡が債務者・所有者に届きます。すると債務者・所有者はこの時点で強制執行が行われることを察し、室内や建物内に運び入れた家財道具などを再び撤去することがあります。「罠」を封じるためには強制執行が有効です。

 不動産会社ではない方(個人、法人)が現況空室の物件を競売で購入した場合は、空振りに終わったとしても裁判所に引渡命令の発令を求め、強制執行の手続きに移行することをお勧めします。