賃貸借契約の更新時に家賃の値下げを提案された場合(オーナー様向け)
春になると不動産会社は賃貸借物件を探すお客様で忙しくなります。ところが、今年の春は新型コロナウイルス感染を避けたいためか、新しい物件を探されるお客様が減っている感があります。
例年、春先に大通りを車で走行すると、お客様をご案内している同業者の車に何台も遭遇します。ところが、今年の春は、お客様をご案内している同業者の車に遭遇することがとても少ないです。
コロナ禍であることから、今年の春に賃貸借契約の更新を迎える方は賃貸借契約を解約して引越すのではなく、「契約更新」を選択される方が多いと予想しています。
契約更新期になると、オーナーまたは管理会社が賃借人に契約更新のご案内を送ります。その際に新賃料を記載し、さらに更新料および更新事務手数料を徴収する旨を記載します。ところが、コロナ禍で生活が苦しい等を理由として、賃借人から新賃料の値下げや更新料の支払免除をお願いされることがあります。
新賃料の値下げを要求された場合、「聞く耳を一切持たない」ことはお勧めしません
家賃の値下げを要望されることがありますが、その際は値下げを希望する理由を個別にお尋ねすることをお勧めします。オーナーまたは管理会社の中には高圧的に「値下げ交渉には一切応じない」と回答するところがありますが、このような対応はお勧めしません。
賃借人の収入が減少したとしても、家賃を優先して支払うように仕向ける必要があります。オーナーや管理会社が「一切聞く耳を持たない」という態度を取ると、賃借人の心が折れてしまい、家賃を滞納し始める原因になります。
「家賃を滞納したら追い出せば良い」とか「新しい賃借人を入れれば良い」とお考えのオーナーがいらっしゃいますが、容易ではありません。たまに「家賃を滞納している借主がいるので、力ずくで追い出して欲しい」とのことで私の会社を訪問されるお客様がいらっしゃいますが、そのような行為は「自力救済」として禁止されています。仮に不動産会社が賃借人を力ずくで排除したことが発覚した場合、その会社は営業停止(事務停止)処分を受けます。
家賃の滞納が続いた場合、賃貸借契約を解約して裁判所に明け渡しを求める裁判を提起し、場合により強制執行を行うことになります。しかし、現状のコロナ禍であることから、裁判所書記官の判断により、訴状を受け取らないことがあります。特に、コロナ禍で解雇されたとか賃金カットをされたことから家賃を滞納している案件では、訴状の受付を拒まれることが多いようです。
仮に訴状を受け取り、明け渡しを求める裁判(訴訟)で勝訴判決を得ても、その後の強制執行をなかなか実施してもらえない状況です。これは、昨年春の緊急事態宣言による裁判手続き停止の影響が現在も続いていることによります。地域によりますが、強制執行を行うためには1年以上を要することがあると考えておく必要があります。
また、現状はコロナ禍であることから、新しい賃貸物件を探しているお客様はかなり減っています。このため、一旦退去してしまうと次の入居者が決まるまでに、かなりの日数を要する場合があります。
滞納、または退去されるより家賃の一部値下げに応じる方が、オーナーの懐具合を傷めずに済むと言えます。
家賃を値下げする場合はどの程度値下げし、契約書には値下げした家賃を記載するべきか
家賃をどの程度値下げできるかについてはオーナーの懐具合や固定資産税等の税額、金融機関への返済額を勘案して決めるのが良いと思います。
「半額にして欲しい」等と要求する賃借人には税金や建物維持費が発生すること、アパート又はマンションを購入する際に金融機関から受けた融資を返済しなければならないこと等を丁寧に説明する必要があります。私の会社がある東京都23区内では、コロナ禍が続いている間に限り15~25%程度の値引きに応じているオーナーが多いようです。30%以上の値引きに応じたオーナーの話は、現時点ではあまり耳に入っていません。
現状のコロナ禍が、今後どの程度継続するのかに関する予想は困難ですが、1年後には収束している可能性があります。家賃を引き下げることにしても、契約更新時に作成する賃貸借契約書に引き下げた家賃を明記してしまうと、コロナ禍が収束した後も、家賃を引き下げたままにしなければならなくなります。更に2年(東京、住宅の場合)が経過すると次の更新時期になりますが、コロナ禍が収束していても、値下げした家賃を据え置くように要求される原因になります。
このため、新しい契約書に記載する家賃の金額は従前と同額とし、期限を限定(例えば6か月)して家賃の金額を引き下げて免除する、または引き下げた金額については後で分割払いで徴収する等を「特約」または「覚書」として作成しておくことをお勧めします。
更新料について
賃借人の中には更新料の支払いを免除して欲しいと言われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、更新料は賃貸借契約書において支払を約する旨が記載されているのが通常であり、更新料もオーナーにおいては貴重な収入源ですから、全額の免除には応じるべきではないでしょう。
どうしても一括で支払えない事情がある場合には、覚え書きを作成して分割払いにする等の方法により徴収するべきと思います。徴収を諦めて免除すると、更に次の更新時においても免除を要求されることにつながります。
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