自分が所有する賃貸物件が事故物件になった(かもしれない)場合
所有する賃貸アパートまたはマンションの一室、または共用部で人が死亡した場合、その物件はいわゆる事故物件と扱われることがあります。心理的瑕疵がある物件では、相場通りの家賃を受け取ることが出来ません。
このようなことが起きることは考えたくないというオーナー様が多いのですが、コロナ禍のために失業した方の自殺や孤独死が増えています。新型コロナウイルスに感染したにもかかわらず、病床が満床のために入院が出来ず、自宅療養していたところ、自宅でお亡くなりになる方がいらっしゃいます。
賃貸物件で人がお亡くなりになられても、事故物件にはならない場合がある
入居者が亡くなり、親族による御遺体や家財の引き取りが終わった時点で、この物件は事故物件になったのか、迷われるオーナー様が多いです。
事故物件の定義に関するガイドラインを国土交通省が定める予定とのことですが、現時点ではまだ公開されていません。このため、事故物件に該当するか否かの判断は、判例および慣習に基づいて行われることになります。筆者の主観が入りますが、事故物件に該当しない事例を列挙します。
入居者が居室内で病気(自然死)により死亡したが、発見が早く、室内が汚れなかった場合
(「入居者が孤独死した物件は全て事故物件である」とする見解がありますが、私は否定説の立場です。)
居室に押し入った強盗が入居者と格闘になり、強盗犯人が負傷して救急搬送(この時点では生存)されたが、その後に病院等で死亡した場合
(救急搬送されたのが入居者であり、病院等で死亡した場合は事故物件になります。)
前の事例で、負傷した強盗犯人が逃走し、建物の共用部で死亡した場合
当該賃貸物件とは無関係の者が賃貸物件の屋上や共用階段等に侵入し、飛び降り自殺を図り死亡した場合
(賃貸物件の入居者が、物件の屋上から飛び降り自殺を図った場合、自殺者の居室は事故物件になります。)
地震などの自然災害により建物が倒壊し、入居者が死亡した場合
同じ建物内の入居者から家賃値下げの要望が出た場合の対応
入居者が建物内でお亡くなりになった場合、建物内に警察が立ち入ることがあります。この場合は入居者が亡くなった事実を隠すことは難しく、同じ建物内の居住者に必ず知られます。
すると、同じ建物の入居者から家賃の値下げを要望されることがあります。特に、事故物件の隣の部屋や、同じフロアの入居者から要望が出ることが多いです。
この場合、オーナー様は弱気になられていることから、応じてしまう方がいらっしゃいます。管理を委託している管理会社に相談すると、家賃の値下げにより空室時における入居者募集を行いやすくなることから「値下げに応じるべき」と回答されることがあります。
しかし、事故物件であるとされたお部屋以外は、入居者募集に際して事故物件であることを告知する必要はありません。また、家賃値下げに応じた場合、入居者が一斉に家賃の値下げを要求してきます。最終的には全ての部屋の家賃を値下げすることになります。
家賃を一旦値下げすると、その後に値上げすることは極めて困難です。空室が生じた場合に値下げに応じてしまうと、安く設定した家賃がその物件における標準的な賃料となり、属性が良い借主に入居してもらうことができなくなります。
特に金融機関からの借入金により賃貸物件を購入した場合は、家賃の値下げが原因で経営破綻することがあります。これは絶対に避けなければなりません。
以上の理由により、ほとんどの場合において家賃の値下げに応じる必要は無いと考えられます。「値下げしてくれないなら退去する」と主張する入居者がいるかもしれませんが、新しい物件への入居費用が発生することから全ての入居者が一斉に退去することはまず考えられません。「値下げには応じない。嫌なら退去していただいて構わない。」という態度で対応することが良い場合が大半です。
事件が報道され、現場が特定されたことから入居者が一斉に退去した場合
一家心中等で複数の方が亡くなられた場合、または強盗致死事件等では、事件の内容が報道されることがあります。すると現場が特定され、同じ建物における入居者が一斉に退去することがあります。
事故物件以外の部屋でも、退去後の空室に対する入居者がなかなか決まらないことがあります。このため、退去後の部屋については家賃を大幅に値下げして入居希望者を募るべきか、悩むことになります。「家賃を半額にしてでも満室にしたい」と考えるオーナー様がいらっしゃいますが、お勧めしません。
金融機関からの借入金により賃貸物件を購入した場合は金融機関に相談することが必要ですが、大半の部屋における入居者が退去した場合は全ての入居者に退去をお願いし、建物の解体および整地を行い、有料駐車場として貸し出す、または土地を売却してしまうことが有利なことがあります。
建物を解体し、賃貸アパート、マンションを再建築することも考えられますが、事故物件としての告知義務があるかについては諸説があります。再建築することにより建物における心理的瑕疵はなくなるものの、土地に関する心理的瑕疵は依然として存在するとする見解があります。
私は、賃貸用戸建住宅の場合は「庭」も貸し出しの対象であることから告知義務があるものの、賃貸アパート・マンションの場合は、事故が発生した建物(部屋)は再建築により消失していることから告知義務はないと考えます。このような場合にどのように判断するべきかは、国土交通省によるガイドラインの公開を待ちたいと思います。
有料駐車場への転換、土地の売却、再建築のいずれを選ぶかは、発生した事件および報道の内容に応じ、個別に検討することが必要と思われます。
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