家賃の支払方法にクレジットカード払いを導入するべきか(オーナー様向け)

コロナ禍が終息しないことから、特に都心では単身者用の賃貸物件における空室が埋まりません。空室を早く解消したい賃貸物件のオーナー様は、様々な集客方法をお考えのことと思います。

時々相談を受けるのは、家賃等の支払方法としてクレジットカードを採用することの是非です。クレジットカード払いについては、オーナー様、入居先を探しているお客様の双方から問合せをいただきます。

特にオーナー様から、家賃等の支払方法をクレジットカードにすれば空室を早く解消できるのではないかとの相談があります。

あくまでも個人的な見解ですが、家賃等の支払い方法にクレジットカードを導入しても、空室の早期解消には必ずしも繋がらないことが多いです。

また、家賃を相場より高めに設定してクレジットカードの利用手数料、および家賃出納に関する管理費を不動産管理会社に支払う必要があります。これらの理由により、積極的にはお勧めできないと考えています。

クレジットカードによる家賃支払が一般的になる気配はない
クレジットカードを利用して家賃等を支払うことを希望される方は徐々に増えているようですが、急激に増えている感はありません。当分の間は、一般的な支払方法にはなりにくいと思います。

また、導入することによりオーナー様においては不便になることもあります。このあたりについて、以下に説明します。

1.クレジットカードを利用できてポイントを貰えるとしても、そのポイント分およびカード会社への手数料が家賃に上乗せされていることについて周知されつつある
クレジットカードの利用手数料は、多くの場合に5%程度のところが多いです。この金額はオーナー様や不動産会社がクレジットカード会社に支払いますが、最終的には家賃の上乗せという形で回収しています。
賃借人がポイントとして貰えるのは0.5%程度であることが多いです。

仮に賃料7万円のお部屋の場合では、年間賃料は84万円です。ポイント還元は4,200円相当額にしかなりませんが、クレジットカード会社は年間で42,000円前後の収入を得ています。

月賃料70,000円のお部屋をクレジットカードを利用して借りることは、現金払いであれば月賃料66,850円(ポイント還元を考慮)のお部屋を毎月70,000円で借りることと同じです。年間では37,800円を余計に支払うことになります。

家賃を銀行振込により支払う場合のATM利用料は年間で数千円未満でしょう。ネットバンキングであれば、無料になることも多いです。

この事実は賃貸不動産に関するWEBサイトによく取り上げられていることから、多くの方に周知されつつあります。

2.クレジットカードを利用できる物件の家賃は、その地域における家賃相場よりも高くなる
上述したとおり、クレジットカードの利用手数料を家賃に上乗せすることから、家賃を地域の家賃相場よりも高めに設定することになります。

このため、入居先を探している方は、その物件の賃料はその地域における家賃相場よりも高いと感じることになり、他の賃貸物件と競合する際に家賃の金額面で不利になります。

3.利用できるクレジットカードが限定されていることがよくあり、賃借人においてクレジットカードを新たに造らなければならないことがある。しかし審査NGの場合がある。
利用できるクレジットカードを管理会社が指定することがあります。クレジットカードは、全ての店で使えるわけではありません。加盟店により、例えばVisaは扱えるがMastersは利用不可であることがありますし、その逆もあります。管理会社が加盟しているクレジットカード会社により、利用できる会社が異なります。

このため、賃借人に新しいクレジットカードの作成をお願いしなければならないことがあり、入居希望者において各種書類を用意する必要が生じることから負担になります。

また、賃借人に新しいクレジットカードを作成してもらう際の審査を通過出来なかった場合の取り扱いが問題になります。入居を認めておきながら、クレジットカードの作成が認められないことを理由として賃貸借契約を解除できるかという問題が生じます。この場合の対応もかなり厄介です。

4.特に若い方の場合、家賃および前家賃をクレジットカードで支払うと、普段の支払との合計額が与信枠を超えることがある。
特に若い方の場合、与信枠が20万円程度しかないことがあり、最初の支払ができない場合があります。

家賃7~8万円のお部屋でも、家賃及び前家賃の合計は2か月分の家賃である15万円近くになることがあります。合計が15万円前後になる場合、普段の支払との合計額が与信枠を超過してしまい、クレジットの引き受けを拒否されることがあります。

この場合、入居後2~3ヶ月目以降からクレジット扱いにすることをお願いしますが、引き受けが拒否された際の後始末がかなり面倒です。

5.敷金、礼金、仲介手数料についてはクレジットカードを利用できない物件が多い。
賃貸借契約の際に敷金および礼金が現金で一括して支払われることは、支払能力があることを示す一つの証拠となります。それに敷金はいわゆる「預り金」なので、クレジットカード払いにはなじみません。

このため、敷金および礼金の支払にはクレジットカードを利用できないとする物件が多いです。仲介手数料は仲介した不動産会社に支払う金銭であり、必ずしも管理会社が仲介するわけではないので、管理会社に領収権限があるとは限りません。

管理会社と仲介した不動産会社とが同一である場合は、仲介手数料もクレジットカード払いが可能なことがありますが、合計すると前述した与信枠を超過する恐れがあります。

6.入金が遅い
オーナー様に送金されるのは、入金の締め切り日から約2か月先になることが多いです。

ご承知の通り、賃貸物件の購入費用を事業用ローンで賄っているオーナー様は、家賃収入を返済の原資にしています。しかし、家賃の支払いがなされてから2か月が経過しないと入金しないのでは、事業用ローンの返済に支障をきたすことがあります。

7.クレジットカードの利用は管理会社を通さなければならず、管理会社への費用が発生する
原則として、クレジットカード会社との契約は管理会社が行います。オーナー様がクレジットカード会社との交渉を直接行うことは、ほとんどありません。

通常は、クレジットカード会社の加盟店である管理会社が家賃の出納代行業務を行います。このため、管理会社はオーナー様から管理費を徴収します。

オーナー様が全ての管理を自ら行う物件では管理費が発生しませんが、クレジットカードの導入により3~6%前後の管理費がクレジットカード会社への手数料の他に発生します。

クレジットカード会社に支払う手数料と合計すると、家賃の約1割が手数料として必要になります。家賃に上乗せするとしても限度があり、全額を乗せてしまうと賃料の相場から大きく外れることから価格競争面で不利になります。