親戚や知り合いから不動産を購入して欲しいと言われたら

 賃貸住宅経営をされている方の中には、気の合う方同士でグループを作り、日常的に情報交換をしている方がいらっしゃいます。グループの会合において、賃貸マンションを所有している方から賃貸アパートやマンションを売却したいという話が出ることがあります。

 最近、空き家問題が大きくクローズアップされています。実家に住んでいた親が施設に入所した、商店や病院の近くにあるマンションに転居した等の理由により実家が空家になった場合に、親戚や友人に住宅の売却話が出ることがあります。

 多くの場合、「不動産会社を通すと高額な仲介手数料を支払わなければならないので、不動産会社を通さないで取引しませんか」というお誘いが付随しています。

 今日は、これらの話があった際における注意点について書きます。

法律上、不動産の個人間売買は可能だが、ローンを利用できない上に登記が困難
 確かに不動産会社を利用しなくても個人間で不動産の売買契約を締結することが可能です。不動産の購入に際しては住宅ローンや事業用ローンを利用したい場合がありますが、不動産会社を通さずに個人間で売買契約を締結した際には、金融機関が住宅ローンおよび事業用ローンの利用を認めません。

 後述する、国土交通省が指定する内容に沿った重要事項説明書および売買契約書が提出されないので、物件の遵法性および価値を判別できないことが理由です。

 例えば、違法に建築された建物の売買に際して買主に融資をすることは違法行為に手を貸す行為であることから金融機関はローン審査を却下します。重要事項説明書および売買契約書がなければ不動産の遵法性(適法に建てられたか)がわからないので、金融機関はローンの申請があっても門前払いにします。

 司法書士立ち会いの下で現金の授受が行われた後に司法書士が登記必要書類を法務局に提出します。売買が適法に行われたことを司法書士が見届け、売買の当事者間で決めた金額の金銭が授受され、書類が揃えば所有権移転登記を成立させることが可能です。

 しかし、不動産会社を利用しない個人間売買では売買契約書等に不備が多くあることが大半です。司法書士は売買契約書等を参照し、「登記原因証明情報」という書類を作成して法務局に提出します。不動産会社が取引に関与しない個人間売買では登記原因証明情報の作成が困難であり、司法書士は責任を負えません。このため、不動産会社を利用しない不動産の個人間売買には協力を拒む司法書士が多いです。

重要事項説明が行われず、プロが確認していない契約に基づく不動産売買は危険
 不動産会社が取引に介在して売買契約を締結する際は物件の調査を行い、価格を査定します。そして、物件の現況、注意点及び問題点と併せて重要事項説明書、現況調査報告書等の書類に記載します。

 売買契約の際には、重要事項説明書を用いた重要事項説明を行うことが不動産会社には義務づけられています。

 不動産会社を利用しないと、例えば建物の朽廃が著しい場合、または隣地との境界に争いがある場合に、これらを考慮せずに価格を決めてしまうことがあります。

 酷い場合は、売買の対象となる不動産が建築が禁止されている土地に無届けで違法に建築された建物である場合に、売主に知識が無いことから遵法性を一切考慮しないで価格を決めることがあります。この場合、買主が高値づかみをさせられる恐れがあります。

 また、いわゆる「二重譲渡」の被害に遭う恐れがあります。二重譲渡とは、売主が二人の買主に対し不動産を二重に売却することを言います。

 判例により、二重譲渡が行われた場合は先に登記を備えた者のみが不動産の所有権を確定的に取得できます。売主が不動産の代金を受領しながら行方不明になり、知らない間に目的不動産の所有権移転登記が自分以外の第三者に行われることがあり得ます。このようなことが起きると、不動産の代金を渡しているのに所有権を得られず、代金も戻らないという悲惨なことになります。

 これらとは別に、抵当権や根抵当権などの担保権が設定されたままの状態で売買が行われることがあります。売主が金融機関に対する債務を弁済しないために抵当権が抹消されず、後日に不動産が突然差し押さえられる事態が発生します。

不動産会社を通さずに不動産を個人間で売買するのは危険
 仲介手数料が発生しますが、不動産の売買を行う際は不動産会社を通すことを強くお勧めします。

 なお、買主が決定している場合は、不動産会社が行う主な内容は物件の調査、価格査定、書類の作成になります。買主の募集、ネット広告の作成、内見対応などの業務は不要なので、仲介手数料の値引きを相談しても構わないと思います。