住宅ローンで自宅を購入した方が自宅を貸す場合はローンの変更が必要

 ご承知の通り、コロナ禍が落ち着きつつあります。新型コロナウイルス感染症の流行が終息しないことから、社員の転勤を先送りにし、その代わりにリモートワークを推進した企業が多いようです。

 来年春にコロナ禍が沈静化していれば、先送りにしていた転勤命令の発令を一斉に行うことが予想されます。

 転勤の辞令を受け取った場合、既に自宅を所有している方はその自宅をどのように活用するべきかについて悩むことになります。単身赴任の場合は残りの家族がその家で暮らすことになりますが、家族全員が引っ越す場合は、自宅を賃貸住宅として貸し出すことをお考えになる方が多いです。

 問題になるのは自宅を住宅ローンを利用して購入した場合です。住宅ローンの返済を続けている場合は、返済未了の残金および利息を事業用ローンとして返済する必要があります。ところが、事業用ローンへの変更手続きを行わずに賃貸物件として第三者に貸してしまう事案が多くあり、後で発覚して大きな問題に発展することがあります。

 変更手続きを怠る理由ですが、「仕事が忙しい」とか「事業用ローンに変更すると利率が上がり、毎月の返済額が増える」という内容が多いです。

 令和3年12月現在における住宅ローンの利率は年利0.3~0.6%程度です。実際に適用される利率は金融機関により、また固定金利・変動金利のいずれを選択するかにより異なります。

 これに対し、事業用ローンの利率は1.1~6%程度です。このため、事業用ローンへ変更すると、住宅ローンの場合よりも返済額が増えます。

 このため「転勤の期間は2~3年だから発覚しないだろう」とか「住宅ローンの返済を怠らなければ何の問題は無いはずだ」と勝手に考え、事業用ローンへの変更を怠る方が多いです。

自宅を賃貸物件として他人に貸した場合、金融機関に発覚するか
 融資を行った金融機関が発送した郵便物が金融機関に返送されることにより発覚することが多いようです。

 金融機関が発送する郵便物は、通常「転送不要」として差し出されます。自宅であるはずの家に他人が入居しており、賃借人からの転居届が郵便局に提出されているようであれば、郵便局は当該郵便物を金融機関に返送することになります。

 郵便物が返送されると、金融機関における融資の担当者が訪問します。本人と異なる名字の表札がかけられていることが確認された場合は、入居している方に事情をお尋ねします。入居者から賃貸住宅として借りている旨の陳述が得られた場合は、他人に貸し出す行為が行われたと判断されることになります。

発覚した場合、どうなるか
 金融機関は住宅ローンを借り入れた本人に対し、事情をお尋ねします。そこから先は金融機関が判断しますが、金銭消費貸借契約書に記載されている禁止事項に該当する行為が行われたと見做され、期限の利益を喪失した旨を通告され、一括返済を求められることがよくあります。

 一括返済を求められた場合、自宅を任意売却で売却して返済することになります。ところが、売却価格は一括返済に必要な金額に足りないことが大半であり、多くの場合に負債が発生します。この負債が多額である場合、自己破産を強いられることがあります。

 転勤の辞令を受け、住宅ローンを利用して購入した自宅を賃貸住宅として貸し出す場合は、金融機関と早めに相談し、事業用ローンへの変更手続きを行うことを強くお勧めします。

 不動産会社において相談を受けた営業担当が賃貸に精通していれば、住宅ローンを事業用ローンに変更することが必要であることを説明すると思います。しかし、春先の繁忙期には賃貸の経験に乏しい従業員が担当することがあり、説明を失念される恐れがあります。

 金融機関への相談および手続きは、賃借人の募集前に行うことが重要です。「仕事が忙しい」とか「事業用ローンに変更すると利率が上がり、毎月の返済額が増える」等は理由になりませんので、くれぐれもご注意ください。