賃貸物件を第三者に転貸する目的で借りたいと言われた場合(オーナー様向け)

 通常、賃貸物件を第三者に無断で転貸することは賃貸借契約における禁止事項であり、賃借人が無断転貸を行った場合は、借地借家法が定める「賃貸人および賃借人、相互の信頼関係が破壊された場合」に該当することから賃貸人であるオーナー様は賃貸借契約を解約することができます。

 しかし、賃貸物件の入居者を募集していると「第三者への転貸を目的として貸したいが、認めてもらえるか」との問合せを受けることがあります。この場合、どのように対応するべきかについて書きます。

 一律に「認めない」とするのではなく、借主および入居者が誰であるか、借りたい理由は何かを確認し判断することをお勧めします。

1.法人が「社宅」として借り上げ、従業員を入居させる場合
 法人が従業員から賃料としていくらかの金銭を「家賃」として徴収することがありますが、「法人」に家賃の支払能力があれば、貸しても問題はないと思われます。

 注意したいのは、入居している従業員が退職または転勤になり、賃貸物件から退去した場合の取り扱いです。次に入居する従業員が決まるまで借り続けるのか、それとも「社宅」としての借り上げを止める(賃貸借契約を借主側から解約)のかを確認しておく必要があります。 

2.「社宅」として斡旋することを生業とする法人が借り上げ、別の法人の従業員が入居する場合
 東証一部に上場している大手企業等を顧客とし、当該企業に勤める従業員が入居する「社宅」を斡旋することを生業とする業者があります。大手企業の多くは従業員の社宅となる物件の探索、賃貸借契約の締結、退去時における事務手続きの煩雑さから逃れるために、社宅の斡旋業者を利用しています。

 大手企業は物件賃料に1~2割程度上乗せした金額を社宅の斡旋業者に支払います。斡旋業者はその中からオーナー様に物件賃料を支払います。上乗せされた部分は、斡旋業者の収入になります。

 このようなシステムなので、オーナー様が得られる家賃収入が減ることはありません。また、サブリース契約ではありませんので、サブリース(マスターリース)契約を締結することによる不利益を被る恐れはありません。

 社宅の斡旋業者に支払能力があれば、賃貸借契約を締結しても問題はないと考えられます。ただし、オーナー様におかれては入居者の氏名、連絡先を把握しておく必要があります。締結する賃貸借契約はサブリース(マスターリース)契約ではないからです。

 前項と同様に、入居している従業員が退職または転勤になり、賃貸物件から退去した場合の取り扱いを確認する必要があります。サブリース契約ではないので「社宅」としての借り上げを止める(賃貸借契約を借主側から解約)ことになると思いますが、予め確認しておく必要があります。

 また、従業員の勤め先が倒産した場合についても考えておく必要があります。この場合、従業員とオーナー様との間で賃貸借契約を直接締結するのが最良ですが、予め賃料を予定しておく必要があります。勤め先である大手企業が従業員に請求していた賃料の金額が極めて低廉であることがよくあり、予め賃料を定めないと、オーナー様はその低廉な賃料しか貰えないからです。

3.いわゆる「民泊」として利用する場合
 観光およびインバウンド需要を喚起する目的で「民泊」の制度が設けられ、民泊事業の立ち上げが流行する時期がありましたが、現在は下火になっています。

 さらに民泊は転貸先を不特定多数とすることから、同じ建物に入居する他の方とのトラブルが発生する懸念があります。

 既存のホテルおよび旅館が営業できなくなる恐れがあることから、多くの地方自治体において民泊物件の年間営業日数を制限する条例が制定されました。それに新型コロナウイルス感染症の流行により観光目的で入国する外国人はほとんどいなくなりました。これらの理由により民泊の運営は採算が合わないとして、撤退が相次いでいます。

 「『民泊』として貸せるところを探したい」と依頼された場合、顧客の募集方法、条例を守れるか、採算面に問題が無いかを確認しますが、現時点では民泊目的の賃貸借契約締結は不可とするのが妥当かもしれません。

 少なくとも新型コロナウイルス感染症が終息し、外国人の観光客が増えてこなければ、大半の物件において採算が合わないことが多いと思われます。