不動産会社におけるフルコミッションの営業担当はいなくなります
不動産会社で働く営業担当の中には、その不動産会社の従業員ではなく、人材派遣業者からの派遣従業員でもない方がいます。
これらの方は「フルコミッション」で働いている営業担当です。その不動産会社の従業員ではないので不動産会社から月額給与を貰うことはありません。彼らは不動産会社から名義を借り、不動産仲介に関する営業活動を行います。
仲介手数料は不動産会社が一旦収納しますが、その何割かが報酬としてその営業担当に支払われます。割合は不動産会社によりまちまちですが、基本給がない代わりにかなり高めに設定しているところが多いです。
月により無報酬になることがありますが、高額の物件に関する仲介が成立した際には100万円単位の収入を得られることがあります。不動産会社の正社員に対して適用される、基本給プラス歩合給を基本とする給与体系の場合は、これほど多くの収入を得られることはありません。
営業担当はいわゆる「個人事業主」として扱われます。しかし、不動産会社にはその営業担当専用の事務机があり、お客様を車でご案内する場合には不動産会社の車を借用し、不動産会社のパソコンを利用して物件情報を取得します。重要事項説明および契約書を作成する場合は、不動産会社の名義を借り、会社名を記載します。
フルコミッションは不動産会社において都合が良い制度でした。社会保険料や年金保険料等を企業が負担する必要はありませんし、年末調整事務、所得税および住民税等の源泉徴収事務等を行う必要がないからです。
雇われる側としても仲介を多数成約させれば多額の収入を得られるので、フルコミッションの営業担当に応募する方が多くいらっしゃいました。
フルコミッションの営業担当における問題点
同じ不動産会社に長期間留まらない方が多いです。再開発が行われた、鉄道の新駅が開業した等があると、直ちにそのエリアにある不動産会社に移ります。
このため、この営業担当を通じて購入した不動産に何らかの瑕疵が見つかった、または説明されて当然である内容の説明を受けていなかった等の場合に、件の営業担当と相談したくても行方がわからないことがよくあります。
昨年の最高裁判例に要注意
昨年、問題となる最高裁判例(最判令3.6.29)が判示されました。 「宅地建物取引業法3条1項の免許を受けない者が宅地建物取引業を営むために免許を受けて宅地建物取引業を営む者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして,公序良俗に反し,無効である。」というものです。
宅地建物取引業法第12条第1項は、宅地建物取引業の免許がない者は宅地建物取引業を営んではならないことを定め、同法第13条第1項が、宅地建物取引業者は自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならないことを定めています。
違反した場合は3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(併科されることあり)。この判例の内容がフルコミッションとして雇われている従事者にも該当するかが問題ですが、「該当する」と解釈できます。
すると、フルコミッションの形態で不動産会社に従事した場合はその者および不動産会社が処罰される恐れがあることになります。不動産会社を揺るがす重大な最高裁判例であると言えます。
宅地建物取引業法
e-gov法令検索
(無免許事業等の禁止)
第十二条 第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
2 第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営む旨の表示をし、又は宅地建物取引業を営む目的をもつて、広告をしてはならない。
(名義貸しの禁止)
第十三条 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
2 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に、宅地建物取引業を営む旨の表示をさせ、又は宅地建物取引業を営む目的をもつてする広告をさせてはならない。
今後は特にコンプライアンスを重視する不動産会社においては、営業担当をフルコミッションで雇うことを止める(というか、止めざるを得ない)ところが増えると思われます。
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