賃貸物件の入居者を募集する際は賃貸借契約書の事前確認が必要

 収益用不動産の客付けを不動産会社に依頼し、入居希望者が現れ、賃貸保証会社(家賃保証会社)の審査をパスしたとします。その後は賃貸借契約を締結することになりますが、賃貸借契約書は貸主側の不動産会社、または管理会社に作成してもらうのが通常と思われます。

 しかし、賃貸借契約書の作成を不動産会社に完全に任せきりにしてしまい、内容を確認せずに賃貸借契約を締結したことから後で大きなトラブルに発展した事案が多いので注意が必要です。

 特に以下の4つの内容について確認が必要であると考えます。記載しなければならない条項なのに記載を省略した、違法な内容を記載した等の場合に、深刻なトラブルに発展します。

1.家賃を滞納した場合の取り扱い

 よくあるのは「家賃を1か月でも滞納したら賃貸借契約は解約になる。この場合、室内の家財の所有権は放棄されたものとし、賃貸人が家財を廃棄しても賃借人は異議を一切申し立てないものとする。」等の文言が記載されている契約書です。

 この文言は民法および借地借家法に反するので、この条項は無効として扱われます。すると賃料を何ヶ月以上滞納したら解約になるかを定める規定が何も存在しないことになり、最悪の場合、借主が家賃を何ヶ月も継続して滞納しても賃貸借契約を解約できないことになります。

 また、 賃貸借契約書の中にこのような文言を規定し、 家賃の滞納が発生した際に貸主が家財を搬出したり廃棄した場合、損害賠償を請求する裁判が提起されれば賃貸人は確実に敗訴します(判例あり)。 家財を搬出したり廃棄する行為は自力救済であることから違法性が認められ、賃貸借契約書における文言は公序良俗に反するからです。 

2.反社会的勢力の排除条項

 賃貸借契約書の契約条項において、この条項が欠落している契約書を何回か見たことがあります。賃貸借契約書に反社会的勢力の排除条項を記載しておけば、入居者が反社会的勢力の関係者であることが判明した場合に貸主は賃貸借契約を解約できます。

 しかし、契約書の中に反社会的勢力の排除条項が存在しないと貸主が賃貸借契約を排除することは困難です。暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)がありますが、既に入居している反社会的勢力の関係者を暴対法により退去させることはほぼ不可能です。

  貸室内に入居する反社会的勢力の関係者が特殊詐欺等の事件を起こし、警察が踏み込む事態になると後始末が大変です。最悪の場合、退去させるのに1年以上を要することがあります。その期間における家賃は入金しませんし、犯人は無一文同然であることが多いので損害賠償を請求することも困難です。

  賃貸借契約書に反社会的勢力の排除条項を記載しておくことは必須です。

3.契約更新の際における契約更新料に関する条項

 賃借人が普通賃貸借契約の契約期間を延長することを希望した場合の更新料ですが、賃貸借契約の特約として賃貸借契約の更新料が必要になる旨が記載されていなければ、貸主は賃借人に更新料を請求できないという判例が多く判示されています。検索すると判例が多数ヒットするので、ここではリンクを貼りません。 

 今後、賃貸借契約書に更新料を請求する旨の記載がない場合は更新料を請求できなくなると考えて差し支えありません。

 なお、この判例は貸室における賃貸借契約に関するものであり、このブログを書いている令和4年6月の時点においては、借地権には必ずしも当てはまらないと考えられます。

4.貸室内で異常事態が発生した場合の立ち入り権に関する条項

 火災、水漏れなどの緊急事態が発生した際に、貸主または貸主から修繕依頼を受けた工事業者が入室できる旨を賃貸借契約の特約として記載しておかないと、理由が何であれ、賃借人が入室を拒む場合は貸主および貸主の依頼を受けた工事業者が室内に立ち入ることは認められません。借主の許可なく入室し、火災や水漏れに対応して被害を最小限に食い止めた場合でも、法的には貸主は借主から損害賠償を請求される恐れがあります。

 被害を最小限に抑えたいにもかかわらず、貸主または貸主から依頼された工事業者が容易に入室できないのでは困ります。工事業者が室内に立ち入れないと、賃貸人が大損害を被ることがあります。

 緊急時の立ち入りに関する条項を賃貸借契約書に記載しておくことをお勧めします。