困った相談(その15、住宅ローンで収益用不動産を購入した)
住宅ローンと事業用ローン
このブログでは何回か取り上げていますが、収益用不動産を購入する際には住宅ローンを利用できません。融資を受けて購入する場合は、必ず事業用ローンを利用しなければなりません。
通常、住宅ローンの利率は年1%未満(変動金利、2022年7月時点)に抑えられています。なお、店頭表示金利は2%を超えているところが多くあります。これに対し、事業用ローンの利率は概ね2~3%超であり、住宅ローンの金利よりもかなり高いです。
なお、融資の金額、返済年数、物件価格の何割を融資に頼るのか、購入する不動産の種類、借りる方の属性などにより適用される金利は大きく異なります。
事業用ローンを提供する金融機関においては事業に伴うリスクを考慮します。このため、事業用ローンの利率は住宅ローンの利率よりも高くなります。収益用不動産を購入して運用する場合は、空室リスクおよび家賃滞納リスクがあるので利率が高い事業用ローンの利用を求められます。
住宅ローンと事業用ローンとでは前者の方が審査を通過しやすい傾向があります。このため、収益用区分マンションや賃貸用戸建住宅を購入する際に、「住宅ローンを利用した方が利率が安くて済みます。」とか「ローンについては全部任せていていただければ金利が低いプランを提示します。」等と言って住宅ローンの利用を勧める不良営業担当者が一部に存在すると言われています。
住宅ローンを利用できるのは、自己居住用の不動産を購入する場合に限られます。収益用不動産の購入には一切利用できず、万が一住宅ローンによる融資を受けて収益用不動産を購入した場合には期限の利益を喪失し、一括返済しなければならないことが約款に書かれています。
住宅ローンを利用した事実が発覚した場合
収益用不動産を購入する際に住宅ローンを利用した事実が発覚した場合、期限の利益を喪失するので残金を一括で返済しなければなりません。
ローンを返済する期間は極めて長期なので、住宅ローンを利用して購入した場合には必ずといって良いほどにどこかで事実が発覚します。金融機関が差し出した郵便物(通常は転送不要とされている)が、宛先の不動産に別人が居住していたことから金融機関に返送され、発覚することが多いです。
発覚した場合、一括で返済できる方はそれ程多くないと思われます。このため、購入した収益用不動産に設定されている抵当権または根抵当権を実行されて裁判所が開催する不動産競売により売却されるか、任意売却により安値での売却を迫られることになります。
本来の不動産価格よりも極めて安く売られることがよくあります。この場合には残金の清算が出来ず、借金が残ります。この借金は以後何年もかけて返済することになります。
そればかりか、金融機関の判断により詐欺罪で告訴されることがあります。立件されると懲役刑に処せられる恐れがあります。
本題
相談内容は「金利が安く、ローン審査を通過しやすいと不動産会社の営業マンに言われたことから住宅ローンを申請し、収益用区分マンションを購入しました。ところが、発覚したら一括返済をしなければならないことを知りました。一括返済に充当できる現金の持ち合わせはありません。どうしたらよいでしょうか。」というものです。
「金融機関が事実を把握した場合、ほぼ確実に一括返済を求められます。これを避けることはできません。追及された場合はなるべく競売を避けて任意売却する方向に持って行くことをお勧めします。多くの場合に借金が残りますが仕方ありません。なお、仲介した不動産会社が住宅ローンの利用を勧めた事実があれば損害賠償を請求できます。この場合は民事裁判を提起する必要があるので弁護士に相談することをお勧めします。」と説明させていただきました。
外形的には詐欺罪に該当する犯罪行為と同一視できる行為が行われ、金融機関から多額の金銭を騙し取ったと見做されても仕方がない状況です。このため、後戻り出来るとしても限度があり「知らなかった」と主張しても完全に免責されることはないと考えるべきです。
非情なようですが、購入した後では上述した以外の解決策はありません。購入前に以下の注意をするべきでした。
・収益用不動産を購入する際には住宅ローンを利用せず、事業用ローンを利用する。
・住宅ローンの利用を勧められても応じない。
・不動産会社の営業担当から「この申込用紙に記入願います。」と言われた際に、その申込用紙が住宅ローンの 申込書であった場合は商談を直ちに中止する。
収益用不動産を購入する際に住宅ローンの利用を勧められたら
お客様が大きな不利益を被ることが確実であるにもかかわらず、悪事を行うことを勧める営業担当の話は全く信用できません。
どのような美辞麗句を並べられても以後の商談を全てお断りし、縁を切ることを強くお勧めします。依頼する不動産会社も他社に変えた方が良いでしょう。
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