定年後の第二の人生において不動産業を開業するのは難しいです
「間もなく定年になるので、退職金を開業資金として不動産会社を立ち上げたい。開業の具体的な方法を教えて欲しい。」という相談を時々受けます。大半の方は不動産業以外の企業に勤めており、宅地建物取引士資格試験に合格しているものの不動産業に従事したことが全くありません。
水を差すようで申し訳なく思うのですが、お話をうかがうと具体的な事業内容をほとんど検討していない方ばかりであり、「これで本当に開業するつもりなの?」と思う方が大半です。
予め考えておくべき、最低限の内容を以下に列挙します。もちろん、考えておく必要があるのは以下の内容だけではありません。定年後の第二の人生において不動産業を開業するのは困難であり、生半可な気持ちで開業すると経営が破綻します。
1.生業とする専門分野に迷う方が大半
不動産業の裾野はとても広く、専門分野を決めないと顧客が付きません。あくまでも東京都区内の話になりますが、最低でも賃貸の分野、または売買の分野のいずれを中心にして営業するかを考えておく必要があります。
宅地建物取引士の資格を取得していても、実務を行うには更に多くの知識が必要です。開業してお客様と向き合いながら知識を習得することは可能ですが、開業して直ちに全ての分野に精通することはどう考えても無理です。
2. 賃貸仲介を専門とする場合、店舗をどこに開業するか
東京都の場合、原則として自宅での開業は認められていません。このため、開業する際は店舗・事務所を借りるか購入することになります。
異論があると思いますが、東京都内で賃貸を専門とする不動産会社を立ち上げる場合は、人口が多いエリアにある駅前の1階で、私鉄沿線の場合は駅から徒歩1分以内の店舗・事務所にする必要があります。
「今後はオンラインによる契約が中心になるので駅前に店舗を構える必要はない。それに物件情報はインターネットで得られる。」とする雑誌記事やブログ記事が多くありますが、賃貸物件のオーナー様は「駅前の不動産会社に依頼しないと入居者はなかなか決まらない。」と考える方が大半であり、数年以内にこの考えが変わる可能性は少ないと思われます。それに物件を借りたい方も「エリアの特徴を知りたい。」として事務所を訪れます。
このため、賃貸仲介業、または賃貸管理業を開業する場合は駅前の目立つ場所に開業する必要があります。しかし、不動産会社を商店街の中に開業すると、多くの場合に大半の商店から反発を受けます。具体的には商店主が根拠のない噂や中傷をネット掲示板に掲載することがあります。商店の経営が立ちゆかなくなった際に引導を渡すのは不動産会社であることが多いことから、商店主の大半は不動産会社を白眼視しています。
それに貸店舗や貸事務所を借りる場合、その窓口は不動産会社です。物件が駅前にあり、窓口になる不動産会社が同じ駅の近くにある場合は「商売敵になるかもしれないので開業を阻止したい」として猛烈な抵抗(仲介拒否)に遭うことが避けられません。
さらに駅前の店舗における賃料はとても高額であり、コストに見合わないことがよくあります。広告活動を大規模に展開して集客し、売上げを伸ばさなければなりません。
3.売買を専門とする場合、物件情報をどのようにして得るか
売買を専門にする場合は、物件情報を入手するチャンネルを広げておく必要があります。レインズやポータルサイトに掲載されている情報は全体の一部です。「内緒で売却したい」、「自宅の敷地の一部のみを売りたい」とお考えになる売主様は、レインズやポータルサイトへの掲載を断ることが多いです。
また、1棟マンション・1棟アパートなどの収益用不動産も、レインズやポータルサイトへの掲載を売主様が希望しないことが多いです。
秘密裏にやりとりされる情報は、他の不動産会社の営業担当から取得します。しかし「私の会社が売却を依頼された未公開物件があります。購入していただけるお客様がいらっしゃったらぜひ紹介してください。」等、未公開物件の取引を依頼されるようになるまでには相応の年数が必要です。内緒の物件情報は、不動産会社の垣根を越えて営業担当同士でやりとりされています。
また、不動産売買を専門に行う場合、売買仲介だけではなく売買も行うか、建築業も並行して行うかについても検討しておく必要があります。
4.営業体制をどのように構築するか
営業の経験者および事務員を雇い入れるか、自ら単独で営業するか等を考える必要があります。賃貸仲介や賃貸管理を行うのであれば社長一人による会社運営は非常に困難であり、事務員および営業職員を複数雇用する必要があります。
また、賃貸仲介の繁忙期(春の繁忙期)は毎年1~3月であり、一年の間で最も忙しくなります。9~10月も忙しくなることがありますが、春の繁忙期と比較するとかなり閑散としています。その他の月は閑散期です。職員を雇用する場合は、このあたりも予め考えておく必要があります。
売買仲介を生業とする場合において、不動産の買い取り再販を行う場合は不動産購入資金の調達先を考える必要があります。また、建築業も併行して行う場合は、建築士等を雇用するかについても予め検討しておく必要があります。
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