外壁塗装および新規内装リフォームをしても誰も入居しない物件
※アパートオーナー(以下A氏)からの相談です。
A氏は築古の木造アパートを1棟所有されています。このアパートには単身者用の部屋が8部屋あります。
かなり前から建物の大規模修繕が必要であると考えていたとのことですが、A氏の本業が多忙であることもあり、修繕工事を先送りしていたとのことです。
ここ3~4年の間に老朽化が急速に進行し、窓や扉の開閉がしにくくなり、一部の部屋および廊下で雨漏りが発生し、シロアリやネズミが発生する状況になったとのことです。
その後は入居者が自発的に次々に退去し、全ての部屋が空室になったとのことです。ある工務店に相談し、フルリフォームをしてもらいました。その内容は建物の外壁塗装、全ての窓ガラスおよび扉の新品交換、貸室および共用部における壁および天井クロスの全面貼り替え、全ての貸室における畳の入れ替え、屋根瓦の葺替え、雨漏りの修理、害虫およびネズミに対する対策、全ての貸室におけるミニキッチンの新品交換、トイレのリフォーム(和式から洋式に)、ハウスクリーニングとのことです。費用は2,000万円以上を要したとのことでした。
相談の骨子は「奮発してフルリフォームをしたが、入居者がなかなか決まらない。」というものです。物件の概要は以下の通りです。
・築60年以上が経過した木造(当然、旧耐震)
・梁や柱の一部に、ネズミにかじられた形跡がある。
・貸室の居間は和室の4畳半1室
・キッチンはミニキッチン、コンロは電気式
・バスルームおよび洗面台はない(洗顔はミニキッチンで行う)
・押し入れの広さは畳半畳
・トイレは同じ階の他室に入居する住人との共用
・洗濯機置き場および物干しのスペースは皆無
・眺望および陽当たりは良くない(隣の建物が近接している)
この物件は東京都大田区の北側にありますが、目黒区との区境に近い高級住宅街の中にあります。このエリアでは4畳半の和室、トイレ共用、風呂なし、洗濯機置き場なし、物干しスペースなし、狭小な押し入れ、旧耐震、眺望不良、陽当たり不良の賃貸アパートに入居する方はほとんどいません。
建物の外壁塗装および貸室の新規内装リフォームを行い、家賃を下げたとしても入居希望者はなかなか現れないと思われます。
A氏には失礼ですが、この建物には2,000万円以上もかけてフルリフォームをする価値がありませんでした。最初に不動産会社に相談しなかったことがとても悔やまれます。「不動産会社を通すとバックマージンを上乗せした金額を請求されると聞いた。少しでも安くしたかったので、工務店に直接工事を発注した。」と言われました。
不動産会社を通して工務店に工事を発注するとバックマージンを上乗せして徴収する不動産会社が存在します。しかし、私の会社でバックマージンを上乗せしたことはありません。
バックマージンの上乗せ徴収をするか否かにかかわらず、良心的な不動産会社を通してリフォームを発注する場合、不動産会社はリフォームの相場を知っていますし、何らかの不始末が生じた際は不動産会社から出入り禁止を申し渡されることを工務店は知っているので、過剰な工事を提案することはあまりありません。ところが施主が単独で工務店に直接相談すると、本来は必要がない部分についてもリフォームを行うことを提案されがちです。
この賃貸アパートでは全ての住人が退去していることから、本来は取り壊すべきでした。再建築する費用がなければ金融機関から融資を受けて再建築するべきでした。オーナー様が高齢である等の理由により融資を受けられない、または再建築した際には確実に採算割れになる場合(地価が高額なエリアなど)は、更地にして売却するべきでした。
この賃貸アパートにフルリフォームを行っても入居希望者はなかなか現れません。一昨日に「早く満室にするための方法」を投稿しましたが、この投稿内容は、A氏の賃貸アパートには該当しません。
残念ながら、A氏の救済策は極めて限られます。追加リフォーム、再建築、土地売却のいずれかです。
再建築および土地売却は全く考えられないとのことでしたので、現在の建物を取り壊さないのであれば2部屋毎にまとめて1室にしてトイレを各部屋に個別に設置する必要があること、可能であればバスルームを設置すること等を提案しました。
A氏によると多額のリフォーム費用をかけていることから追加のリフォームを行えるだけの資金はないとのことであり、「家族と相談する」と言われてお帰りになりました。
所有されている収益用不動産を早く満室にしたい場合は、まず最初に不動産会社に相談することをお勧めします。工務店は建築のプロですが、賃貸物件を早期に満室にするプロではないからです。
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