不動産価格は近いうちに本当に暴落するのか

 著名なインフルエンサー、不動産アナリストが「不動産価格が近いうちに暴落するので今は買わない方が良い。」と主張しています。

 また、週刊現代(講談社)の記事(リンクはこちら)には、「収益用不動産は今すぐ売ったほうがいい」と書いてあります。

※掲載社の都合により元記事が削除され、リンクが切れることがあります。

 週刊現代(講談社)の記事はかなり長いので引用しませんが、要約すると以下の3点に集約されます、

  • 金利の上昇に伴い事業用ローンの利率が上がり、毎月の返済額が増える。このため、現状の利回りが低い物件では採算が合わなくなる。
  • タワーマンションが数多く建設されたためマンション価格は大きく上昇した。いずれは下がる。
  • 消費者物価指数が上昇するので実質賃金が値下がりするか、金利が上がり、住宅ローンを組めなくなる。

 不動産価格の推移を検討する際にインフルエンサー、不動産アナリスト、週刊現代のいずれもすっかり忘れていることがあります。それは外国の機関投資家、および外国金融機関の存在と、ローン利用者の大半が元利均等償還方式を選択していることです。

 外国の機関投資家は円安の際に日本の不動産を購入し、円高になった際に高値で売り抜けることを考えています。少し前に円相場1ドル=150円になりましたが、このときには外国の機関投資家および外国の金融機関が日本の不動産に注目し、主に収益用不動産および土地を物色していました。

 現在、円相場は1ドル=127~128円前後です。2022年秋には1ドル=150円前後でしたが、このときに収益用不動産を購入した機関投資家が現在(2023年1月)売却した場合、半年も経過していないのにドルベースで仕入れ価格の1.2倍近くで売却できたことになります。

 それに外国の機関投資家や金融機関が不動産を購入する際は、主に現金一括による購入になります。日本人が不動産を購入する場合は国内の金融機関が提供するローンを利用しますが、外国勢は現金一括による購入なので日本国内の利率に縛られません。

 外国勢が狙うのは主にキャピタルゲインであり、インカムゲインは二の次です。表面利回りが低い収益用不動産であっても、大きなキャピタルゲインが狙えると思えば積極的に買い入れる傾向があります。

 ということで、日本人の実質賃金が減少し、または利率が上昇したために日本人が不動産を購入できなくなっても外国勢が日本国内の不動産(主に収益用不動産と土地)をドンドン買い上げる状況になることが想定されます。

 また、日本人が既に所有している収益用不動産の多くは金融機関が提供する事業用ローンを利用して購入されたものです。ローンの返済期間中における売却は困難です。

 特に新築または築浅の物件を元利均等償還方式のローンを利用して購入した場合、返済額の多くは利息の償還に費やされ、元金はなかなか減りません。このような状況で物件の売却を行うためには売却価格と残債との差額を一括で金融機関に支払う必要がありますが、実際には支払えない方が大半であり金融機関が売却に反対します。このため、売り出される物件は少ない状況が続くと思われます。

 インフルエンサーおよび雑誌記事が「収益用不動産は早く売ったほうがいい」と煽っても、金融機関が物件の売却に賛成しない物件が多いことから売物件の数が増えることはなく、さらに外国勢が買い上げることから価格は変わらないと思われます。今年の春に不動産価格が急落する可能性はとても少ないと思います。

 このように書くと「1990年頃のバブル崩壊後に不動産価格が大幅に下がったことをどのように説明するのか」という質問が出ることが考えられます。しかし、あの頃は「事業を興せば、内容によらず多額の利益を出せる」、「都市部の土地を購入すれば高く転売できる」という状況であり、定期預金の金利は年7%を超えていました。土地価格が暴落した原因は、転売目的による土地の購入に対する融資をしないように国が金融機関に働きかけ(総量規制)、転売ができなくなったことにあります。

 ここ2~3年の間に不動産価格が急騰しましたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延とロシアーウクライナ戦争による収益用不動産に対する人気集中が原因です。飲食店及び物販店の多くは回復不可能と思えるほどの大きなダメージを受けています。定期預金の金利は、利率が高い金融機関でも0.3%以下です。

 現在は「事業を興せば、内容によらず多額の利益を出せる」とか「都市部の土地を購入すれば高く転売できる」という状況ではありません。1990年頃の社会状況とは大きく異なります。

 現在が「不動産バブル」であるとしても「不動産ミニバブル」であり、仮に崩壊しても1990年頃のバブル大崩壊の再来にはならないと考えています。

※不動産の投資判断は自己責任にてお願いします。このブログの記載内容に則った投資判断を行い、損失が発生した場合でも、筆者および有限会社大森不動産は一切の責任を負いません。