不動産売買業、売買仲介業はAIによる完全自動化が可能か(その2)

※一昨日に投稿した内容の続きです。

 「不動産の購入はAIで全て自動化できる」と主張する方は、AIにより自動化された不動産売買は概ね以下のようになると主張します。

 本日は、以下の枠中赤字で示した重要事項説明がAIになじむかを検証します。

・物件の紹介を受ける場合はポータルサイトに掲載されている物件を選択し、内見希望のボタンをクリックすると内見方法が表示される。オンライン内見を実施したい場合は、対応するボタンをクリックすることによりオンライン内見が実施される。

・重要事項説明はオンラインで行う。または重要事項説明書を売主(または売主側の不動産会社)が購入希望者にオンラインで送付するだけで構わないように法改正する。


・購入を申し込む場合は通販と同じようにマウスでクリックすることにより契約が成立する。代金の支払はオンラインバンクで済ませる。

・住宅ローンを利用する際もWEBサイト上で申込みが完了する。申込時に希望借入金額、希望返済期間、年収、年齢、勤務先、職業をインプットすることにより金銭消費貸借契約締結の可否はAIが自動的に判断する。AIは入力された条件により最適な利率を算出する。契約締結可能と判断された場合、金銭消費貸借契約はマウスクリック一つで成立し、借り入れた金銭は決済時に自動で売主に支払われる。

・鍵の受け渡しは、売主における入金の確認後に宅配便で行う。

 不動産売買を行う際には買主様に対する重要事項説明を必ず行います。宅地建物取引業法第35条は必須事項として義務づけています。

 重要事項説明は対面(オンラインを利用した対面でも可)で実施することが義務づけられており、違反した場合は罰則があります。そして説明は国家資格者である宅地建物取引士が宅地建物取引証を提示しながら行わなければならないことが宅地建物取引業法により定められています。

 オンラインを利用して重要事項説明を行う場合は通信環境が良好であることを事前に確認することが義務づけられています。画像の動きが止まる、音声が途切れる等の場合はオンラインによる重要事項説明を行わず、通常行われる対面による重要事項説明に変更しなければならないとされています。

 買主様の多くは不動産業に携わっていません。このため、重要事項説明書に記載されている語句の意味がわからないと言われる方が多くいらっしゃいます。この場合は言葉の意味も含め、詳しく説明する必要があります。

 また、重要事項説明を行う際には買主様が質問をすることがよくあります。この場合は質問に対し正確に回答する必要があります。

 土地又は戸建住宅の売買において、土地の状態や境界線の位置が重要事項説明書に記載されている内容と食い違うとか、物件に何らかの瑕疵が存在する旨が説明されることがあります。驚いたことに、重要事項説明の際に初めて発覚することがあります。何らかの理由により契約の締結をかなり急がなければならない場合にこのようなことが発生します。

 説明方法が対面、オンラインのいずれでも重要事項説明の際に新たな問題が浮上した際は臨機応変に対応しなければなりません。当然ですが、重要事項説明書および契約書(案)を変更しなければならないことが多いです。

 買主様が購入を承認しない場合は契約の延期、土地の再測量、瑕疵の除去等を行わなければならないことが多いです。重要事項説明書および売買契約書は当然書き直しになります。売却価格も変更することが多いです。場合により購入自体が取りやめになることがあります。

 売買契約を延期した場合、固定資産税および都市計画税の清算金も変わります。住宅ローンを利用した売買の場合は金融機関との調整も必要になります。 

 滅多にないのですが、物件に問題がないのに重要事項説明を行った直後に買主様が物件の購入を断ることがあります。支払代金の調達が難しくなった、家族が購入に反対した等、重要事項説明を行う前に判明していたであろう内容を理由として売買契約の締結を断る方がいらっしゃいます。この場合、どのように対応するべきか悩ましいです。

 以上述べた内容の全てをAIで自動化するのは非常に困難であると考えます。

 「重要事項説明書は買主がダウンロードできるようにし、対面による説明は不要とするように法改正するべき。」とする主張が一部にあります。

 しかし、このような主張は乱暴極まりないものであり、不動産取引の安全を著しく害するので賛成できません。言葉の意味がわからない文書を渡された買主は読まずに放置するでしょう。すると売主が一方的に有利な取引になります。

 重要事項説明は、AIに全くなじまない性質のものであると思います。