賃貸マンション、アパートの賃借人が行方不明になった場合
賃借人が行方不明になることがあります。部屋に人が居住している様子がなく、郵便受けはチラシなどであふれています。家賃の滞納は、2か月以上続いていると仮定します。
同じ建物の隣の部屋の住人に尋ねたところ、引越し業者らしき人が家財を運び出しているのを見たものの、全ての家財を運び出したかは不明とのことでした。また、部屋から異臭がする等の異常は確認できないとのことです。
このような場合に、オーナーはどのような対応をしたら良いかについて書きます。
1.賃借人の所在、および取り巻く状況の確認
まず最初に行うべきなのは連帯保証人、緊急連絡先として指名されている方への連絡です。勤務先が申告されている場合にはその勤務先に問い合わせます。
また、金融機関の担当者などが同じ建物内の他の居住者に対し、行き先を尋ねていることがあります。同じ建物内の住人、特に隣室の住人に、そのようなことがなかったかを尋ねてみると良いかもしれません。金融機関の担当者が来訪していた場合は、金銭的な理由による夜逃げの可能性があります。
後日に裁判上の請求を行う際に必要になりますので、問合せの日時、相手、聴取した内容を記録しておきます。もっとも、いわゆる「夜逃げ」の場合は誰にも行き先を告げずに行方をくらましていることが大半です。
2.内容証明郵便の送付
滞納している家賃の支払の催告、および滞納が続いた場合には賃貸借契約の解除を予告する内容を記載した内容証明郵便を送ります。
送り先ですが、賃借人の居所がわかればその住所宛てとし、不明の場合は契約している賃貸物件の場所を宛先にします。後者の場合、賃借人が郵便局に転居届を提出していれば1年間に限り、転居先に転送されます。
当然ですが、内容証明郵便が届かない場合がよくあります。居所が判明したと思っていても、転居先不明で戻ってくる場合がありますし、転居届が提出されていなければ所定の保管期間経過後に返送されます。
返送された場合は、賃貸借契約解除の意思表示を裁判所の公示送達により行うことになります。なお、この時点における家賃の滞納期間が3か月以上継続していないと、裁判所は動いてくれません。裁判所の掲示板等に2週間程度掲示することにより、賃貸借契約解除の意思表示が賃借人に届いたと見做されます。
3.裁判を提起(明け渡し請求)
賃貸借契約が継続している間は、オーナーといえども勝手に賃借人の部屋に入ることは認められません。ましては家財を勝手に搬出することは自力救済行為であり、不法行為であると見做されます。
このため、室内に残置物があるか否かがわからない場合、裁判所による確定判決が出るまでは室内に入らない方が良いです。
裁判を提起し、建物明け渡しを請求します。判決が確定するには約2~3か月を要します。
4.強制執行(催告)
建物の明け渡しを認める確定判決が出た場合、次のステップとして強制執行を行います。裁判所の執行官室に強制執行の申し立てを行います。
通常は、2週間後に執行官が物件を訪問します。この時点でオーナーは執行補助者を指定します。当日は執行官、執行補助者、解錠技術者、立会人を同行し、解錠技術者が解錠して入室します。賃借人がオーナーに無断で鍵を交換している場合には解錠する必要があるので、解錠技術者を同行させる必要があります。
残置物が何も残されていない場合は、解錠技術者が部屋の鍵を交換し、賃借人が部屋に戻っても入室できないようにします。執行官は部屋の占有がオーナーに移転したことを宣言し、この時点で強制執行を終了します。
残置物がある場合は、賃借人による占有があると認められるので、更に次のステップである「断行」に進みます。
5.強制執行(断行)
通常、断行は催告の1か月後に設定されます。断行の少し前になると、行方不明になっている賃借人が現れ、強制執行(断行)を止めて欲しいと言ってくることがあります。しかし、私の経験では、断行を粛々と進めるのが得策である場合が多いです。
オーナーが行っても良いのは、賃借人に残置物の所有権を放棄させ、所有権を放棄する旨を記した書面を受け取ることです。この書類があれば、オーナーが残置物を廃棄することが可能になります。
断行の当日、執行官にこの書類を渡すことにより、執行官はオーナーに占有が移転したことを宣言します。その後、解錠技術者が部屋の鍵を交換して強制執行を終わります。
所有権の放棄を記した書面がない場合でも、執行官は断行を粛々と行います。執行補助者が家財の全てを搬出し、執行補助者が予め手配した倉庫に移動します。解錠技術者が部屋の鍵を交換し、執行官はオーナーに占有が移転したことを宣言します。オーナーは部屋の明け渡しを受けることが出来ます。
家財は倉庫に約1か月保管されます。賃借人が引き取らない場合は、動産競売が行われます。裁判所により、地元の動産買い取り業者が出向くことがありますが、通常はオーナーが動産を買い取り、オーナーが廃棄することになります。
オーナーの負担を少なくするためには
東京都内の場合、賃借人による賃料の滞納が始まってから部屋の明け渡しを受ける為には最長で8か月程度を要します。かなりの日数および費用を要するので、このような賃借人が出てくるとオーナーは大変な目に遭います。
次回は、オーナーの負担を減らせる場合について書きます。
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