今、この場で「不動産を買い取って欲しい」と言われても

 3月31日は年度末です。この日のお昼頃、以下の相談がありました。

相談内容

※守秘義務があるため、一部アレンジした箇所があります。

 会社の経営状態が良くないので会社所有の不動産(収益用不動産)を3月末迄に売却したいと考え、売却を老舗の不動産会社に一任していました。ところが購入希望者が全く現れず、今に至ります。 
 今日は決算期の最終日である3月31日です。そちらで今日中に現金一括で購入していただくことはできませんか。これから契約し、今日中に代金を支払ってもらえれば会社の倒産は避けられます。何とかなりませんか。
 場所は目黒区の○○○○駅から徒歩3分で、1階に飲食店が入居し、2階より上はマンションとして貸しています。

 「不動産会社であれば何億円もの現金を預金しているし、所有権の移転は急がせれば良い」とお考えの方がいらっしゃいます。しかし、そのようなことはありません。

 不動産会社が物件を買い受ける場合は物件を念入りに調査します。建物の状態、入居者の属性、登記簿における担保権などの設定状況、所有者の財産状況、共有者の有無、物件周辺の環境等を調べます。

 調査の結果、買い取り可能と判断した場合は金融機関に買い取り資金の融資を申請します。融資が認められるかの判断が出るには10日~3週間を要します。何億円もの買い取り資金を常に金融機関に預け、自由に動かせる不動産会社はとても少ないと思われます。

 また、担保権(抵当権や根抵当権)が登記されている場合は抵当権者と担保権解除の交渉を行う必要があります。通常、これには1週間以上を要します。

 老舗の不動産会社に売却を一任していたとのことですが、この不動産会社の主な営業内容は賃貸仲介および管理でした。「老舗」の看板を信用して売却を依頼したのでしょうが、この老舗に売却のスキルがほとんどなかったために起きた悲劇です。

 とても残念ですが、筆者の会社で対応できる事案ではなく、お断りするしかありませんでした。何故もっと早く売買専門の不動産会社に依頼しなかったのか、とても悔やまれます。

 老舗や大手でも不動産売買は苦手なところが数多くあります。不動産売買の際は不動産会社の選択に注意が必要です。