インボイス制度は問題だらけ

インボイス制度は問題だらけ

 ご承知の通り、10月よりインボイス制度が導入されます。この制度が開始されると免税事業者が発行する請求書および領収書の金額には消費税が含まれないとして税務申告をしなければならなくなります。

 現在は課税事業者か免税事業者であるかを問わず、課税仕入れに際して支払われた金額の110分の10を消費税と見做しています。これに課税売上の割合を掛け合わせた金額を、課税売上を収受する際に徴収した消費税の総額から差し引き、この金額を消費税として納付しています。なお、仕入れや売上が課税、非課税、不課税のいずれであるかは商品やサービスの内容により異なります。

 しかし、インボイス制度がスタートすると、免税事業者に支払った金額の110分の10については「消費税」とは見做されなくなります。納税額から差し引けないので、取引先は商品やサービスの代金をその分だけ減額することを求めてきます。

事業者が徴収する消費税は預り金ではない(判例あり)

 「消費税は預り金」と誤解している方が大変に多いので驚かされます。後述しますが、「物価の一部である」と判示し、確定した判例があります。

 課税事業者は、売上に付随する消費税をそのまま税務署に納めているわけではありません。所定の計算を行い、仕入れの際に支払った消費税の一部を差し引いて納めています。

 それに、事業者がいわゆる「徴収義務者」として指定されている事実はありません。

 課税売上が発生しなければ、仕入れの際に支払った消費税を差し引くことができません。また、非課税売上の割合が多ければ多いほど、仕入れの際に支払った消費税を差し引けなくなります。

 政策的に非課税とされている商品、例えば「土地」の売買を行う不動産会社にとって、とても不利な税制です。土地を仕入れて再販する場合、調査、測量、地盤調査、査定等に消費税が発生します。この消費税は不動産会社が支払いますが、支払った消費税は還付されないので雑損失として処理するしかありません。

 消費税は「預り金」ではなく、「物価」の一部であると判示した判例(東京地裁平2.3.26)があります。意外かもしれませんが、この主張を展開したのは「国」です。

 控訴されなかったので確定した判例であり、最高裁の判例と同じ扱いになります。

インボイス制度を強行すれば中小零細事業者が破綻し、失業者が増大

 コロナ禍が長期化し、円安による燃料及び物価の高騰により免税事業者は青息吐息の状態です。その上に商品や提供サービスの価格を大幅に値下げするように求められるのでは、事業の継続が出来なくなります。

 特に問題になるのは零細の宅配便事業者です。円安によるガソリン価格の大幅値上げのため、既に疲弊している事業者が数多くあります。インボイス制度が開始されたら配送代金の大幅減額を求められることが避けられません。このため、中小・零細事業者の多くが廃業に追い込まれるのではないかと言われています。

 大手の運送会社でも宅配便の配達所要日数が長期化する、配達日時の指定ができなくなるなどの弊害が生じることが容易に想定されます。

 課税事業者になると事務作業の量が激増します。消費税の確定申告書を作成する必要があるからです。

 とにかくインボイス制度は問題だらけであり、これが実行されると中小・零細企業の多くが廃業することになります。これでは下請けとして中小・零細企業を利用している大手企業も、事業の遂行に困窮を極めることになります。

 「大企業だけが生き残れば良い」と豪語する政治家やインフルエンサーがいますが、とても浅はかです。大企業といえども中小・零細企業から原材料の納品およびサービスの提供を受けています。下請け企業が消滅すれば、大企業も存続が難しくなります。

 中小企業に従事している方は全就業者数の69%(経済産業省作成PDFによる)です。課税事業者数は全企業数の44.7%であり、半分以下です。この状況でインボイス制度が導入されたら多くの方が賃金カットを受けるか、失業します。犯罪が激増し、収拾が付かなくなる恐れが大いにあります。

事業用物件のオーナー様は大変

 賃貸用店舗、事業用ビルのオーナー様で、売上げ1,000万円未満の場合、インボイス制度が導入されたら大変です。

 入居しているテナントが課税事業者の場合、従来通りの家賃を徴収するのであればオーナー様が課税事業者として登録することになります。非課税事業者のままであれば消費税相当額の減額を求められる恐れがあります。 

 課税事業者として登録すると、消費税分を税務署に納付する必要が生じますし、決算書類の作成に時間を取られます。良いことは何もないと言えます。