満室を装う1棟マンション・アパートに注意

「満室」を装う1棟アパートや1棟マンションが増えている理由

 新型コロナウイルス感染症がいわゆる「5類」になり、マスクの装着も個人の判断に委ねられるなど、コロナ禍はほぼ終息したと見做すムードがあります。約3年も続いたコロナ禍のために飲食店や物販店の多くが廃業し、東京都の中心部では賃貸アパートや賃貸マンションに対する需要が急増しました。

 1棟マンションや1棟アパートなどが数多く売れ、新築物件も数多く売り出されました。あまりにも需要が多いために価格が急騰し、利回りが極限まで低下しました。この記事を執筆している令和5年6月の時点では、都心における物件の表面利回りは3~4%程度です。数年前までは7~8%の物件が大半を占めていたので隔世の感があります。

 ところが、都心では物件をあまりにも多く建てすぎたためか、空室率が上昇しています。都心の収益用不動産では多くの物件において空室率が10%超で推移しています。筆者の会社がある東京都目黒区では28%を超えているようです。

 空室が多い物件は利回りが低くなるので、売却したくても購入希望者がなかなか現れません。購入希望者の大半は「現状満室」の物件のみを探されます。しかし、都心では空室が増えているのでなかなか満室になりません。このため「満室であるように偽装して早く売却しよう」と考えるオーナーや不動産会社が現れます。

 これが満室を装う1棟アパートや1棟マンションが存在する理由です。

満室ではない物件を購入するとどうなるか

 前述したとおり、東京の都心にある収益用不動産の想定表面利回りは極限までに低下しています。空室が多いと利回りは下がります。たとえば満室時想定表面利回り5%の物件において空室率が10%になると表面利回りは4.5%になります。空室率が20%になると表面利回りは4%になります。

空室がある物件では入居者の募集を不動産会社に依頼しなければなりません。仲介手数料および広告宣伝費を負担する必要があり、年間収支ではマイナス収支になることがあります。

 マイナス収支が長く続くと経営破綻を招きます。事業用ローンを利用して物件を購入した場合は返済ができなくなります。最終的にはせっかく購入した不動産を任意売却や不動産競売で手放さなければならなくなり、さらに借金が残ります。

「満室」を偽装した物件を買わないためにはどうするか

 レントロールには満室である旨が記載されていても、実際には空室があり、「満室」が偽装されている物件が存在します。満室を偽装する手段は様々です。夜間に各部屋の電灯を点灯させておく、郵便受けに名字を記載した名札を貼る等です。

 満室偽装物件を見抜くために有効なのは、全ての賃貸借契約書の開示を求めることです。また、家賃保証契約が締結されている物件では、不動産会社が保証契約の控えを保管しているはずなので、開示を求めます。

 「個人情報に関する書類であるから開示できない」等と言われた場合は、その物件の購入を見送ることが賢明です。さらに紹介したこの不動産会社を利用しないことをお勧めします。

  借主の氏名欄を黒塗りすることにより、賃貸借契約書および保証契約の控えを開示できるはずです。物件を購入した場合は全ての賃貸借契約を買主が承継するので、購入希望者は契約前に閲覧する権利があります。承継する賃貸借契約の内容を閲覧できないのでは、購入の前提を欠きます。

 通常は、入居日および家賃が各部屋で異なります。これらが同じ部屋がある場合は、社宅として借り上げられているのかを確認します。社宅であれば問題ないと思われます。

 全ての部屋における賃貸借契約の内容をレントロールと突き合わせ、賃貸借契約書に記載されている賃料がレントロールに正確に反映されているかを確認します。

 レントロールに記載されている家賃が、賃貸借契約書に記載されている金額よりも高額であることがあります。このような物件は購入を見送るべきです。

 その他、賃貸借契約書およびレントロールに疑義があれば、その物件の購入を見送ることをお勧めにします。