賃料を滞納している賃借人が自己破産した場合について
残念ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大が原因で勤め先を解雇された、または賃金カットをされたことを原因とした家賃滞納は急増することが予想されます。
賃料の滞納が発生した場合、どのように回収するか、または賃料の減額で対応するべきか等について頭を悩まされているオーナーは多いと思います。
これだけでも悩むのに、賃借人が自己破産した、または破産宣告を受けた場合における滞納賃料の扱いは、更に頭が痛い問題になります。
破産財団が形成される場合と形成されない場合とでは対応が異なります。
破産財団が形成される場合、滞納賃料は破産手続き開始前と、手続き開始後とに分ける
破産手続き開始前の滞納賃料
破産手続き開始の決定前に発生していた滞納賃料は、破産法第2条第5号が定義する破産債権になります。敷金を預かっている場合は敷金から滞納家賃を控除し、控除しきれなかった部分を破産債権にすることも可能です。
破産債権は破産法が定める手続きに従い、債権としての届け出をします。賃借人に対する一般債権と同じ扱いになりますが、仕方ありません。回収できるのは、滞納額の10%に満たない場合があります。このような場合は、運が悪かったと思い、諦めるしかありません。
破産手続き開始後、賃貸借契約が終了するまでの滞納賃料
破産者の財産状況を調査した結果、破産財団が結成されることがあります。この場合、破産手続きが開始されてから賃貸借契約が終了されるまでに発生する賃料は破産財団の債権となり、一般債権とは別に優先的に弁済を受けることが出来ます。
賃貸借契約を解除するか、または継続するかについては賃借人の破産管財人が決定します。賃借人が賃料を継続して支払える見通しが立たない場合は、破産管財人から解約が申し入れられることが大半です。この場合は、原状回復の費用をどうするかについてと退去の時期について協議しておく必要があります。
破産財団が結成されない場合、破産手続き開始後の滞納賃料を回収する手段はありません。
賃貸借契約を解約するか継続するかについて、破産管財人が結論をなかなか出さない場合
破産管財人が優柔不断で結論をなかなか出さないことがあります。この場合は、破産法第53条第2項により、オーナー側から破産管財人に対し、相当の期間を定めて賃貸借契約の解約か継続かを確答するように催告することができ、この期間内に確答がない場合は、オーナーは賃貸借契約が解除されたものと見做すことが出来ます。
ただし、前述したとおり、破産手続きが開始されてから賃貸借契約が終了されるまでに発生する賃料は破産財団の債権となり、一般債権とは別に優先的に弁済を受けることが出来ます。契約解除をむやみに迫ることが得策ではないことがありますので、この点には注意が必要です。
破産財団が形成されない場合
破産管財人への報酬を支払える程度の財産すら残っていない場合、破産財団が形成されることはなく、破産手続きはこのまま終了します。この場合、賃借人がオーナーに対して滞納賃料を支払う義務は免責となり、滞納家賃を回収する方法はありません。ただし、敷金から滞納賃料相当額を充当することは可能です。
家賃滞納の状況が続く場合は賃貸借契約を解約し、退去をお願いするしかありません。滞納が3か月以上継続し、退去に応じない場合は、明け渡し請求の裁判を提起し、退去を迫ることになります。
面倒だからと言って、賃貸借契約の解除に関する特約を設けることは認められません
賃貸借契約書において、「自己破産または破産宣告を受けた場合には賃貸借契約は解除になる」旨の特約を入れても無効になります。破産法第56条第1項がそのように定めています。
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