賃貸物件の賃借人が新型コロナウイルス感染症を発症した場合

これから寒くなるにつれ、新型コロナウイルス感染症が再び猛威を振るうかもしれません。賃貸物件の居住者が感染、発症し、検査により陽性と判断された場合、オーナーも対応しなければならない場合があります。

1.医療機関が発生届を保健所に提出
居住者の陽性確認がなされた場合、発症日前後の行動などについて保健所が本人に対し、聴き取り調査を行います。症状が重く、本人から聞き取れない場合は関係者から聴き取ることがあります。

2.保健所による疫学調査と建物管理者への連絡
管理している不動産会社、または建物所有者に対し、保健所から連絡があります。

同居者および濃厚接触者がいる場合には同居者および濃厚接触者における健康状態を観察するように指示されます。最初に発症した方と同じ症状の方がいる場合には、保健所に連絡するように指示されます。

※この時点において注意するべきこと
新型コロナウイルス感染症を発症した居住者がいることを、他室の居住者に知られないように配慮することが必要です。万が一、他室の居住者等に知られた場合は、口外しないように話をしておく必要があります。

保健所の職員などが訪問すると、病名、どの部屋の誰が感染したか等について、オーナーまたは管理会社に問い合わせる住人が現れることがあります。この場合、「居住者のプライバシーに関する内容なのでお答えできない。」等と回答するべきです。

3.建物の消毒を行うかの判断
保健所の所長が消毒の必要性を判断します。

4.消毒命令
賃貸マンションや賃貸アパート内に複数の感染者が確認された場合は、発症者の室内および共用部に対し、消毒命令が発令されると思われます。
保健所の所長名で消毒命令が発令された後、保健所の職員が消毒の方法、消毒が必要な場所と消毒の範囲について指示します。

5.消毒
管理を受託している不動産会社、または建物所有者(オーナー)から委託された消毒業者が消毒を行います。消毒の際には保健所の職員が方法を指示します。

消毒に要する費用は、原則として建物所有者(オーナー)の負担になります。公費負担の制度はありません。

6.他の入居者に対するアフターフォロー
この感染症を患った方に対する誹謗中傷が社会問題になっています。「新型コロナウイルス感染症を発症した住人がいるので、部屋と周囲を消毒している。」等の説明をすると、「発症者が出た部屋の住人を追い出して欲しい。」等の要望が出て騒ぎになり、収拾が付かなくなる恐れがあります。

発症した方が快復し、退院後にこの建物に戻った場合に、他の居住者が嫌がらせをする恐れがあります。発症した方には責任はないのですが、感染を恐れるために突飛な行動を執る方がいます。

消毒の目的を訊かれた場合には「保健所の指導により、必要な場所の消毒をしている」等と回答し、新型コロナウイルス感染症の発症者が出たこと、および発症者の部屋番号、氏名を教えるべきではありません。

「新型コロナウイルスですか」等と訊かれた場合も、「プライバシーであり、守秘義務があるので回答は控える。全ての居住者の安全が第一であることは承知している。保健所の指示に従って対応しているので安心して欲しい。」等と答える必要があります。

7.新型コロナウイルス感染症に罹った居住者に対し、オーナーは消毒費用を請求できるか
故意によりこの感染症に罹った場合でなければ、オーナーから感染者への損害賠償の請求は困難です。賃貸人は賃借人を安全に居住させる義務があることから、感染症の発症による消毒作業の費用は賃貸人(オーナー)の負担になります。

8.オーナーは、新型コロナウイルス感染症に罹った居住者を退去させることができるか
他室の住人が騒ぎ出した場合、オーナーとしては感染症を発症した賃借人に退去してもらうことを考えたくなると思います。しかし、新型コロナウイルス感染症に罹ったという理由でこの賃借人に退去をお願いしても、この要求は公序良俗に反する要求(民法第90条)と見做されます。

仮に部屋の明け渡しを求める内容の裁判を提起することにして訴状を作成して裁判所に提出しても、裁判所書記官より民法第90条に該当する提訴であると判断され、訴状の受け取りを拒否されると思われます。