家賃を滞納する賃借人に対する対応(その1)

 この記事を執筆している2024年6月時点では景況感が凄まじく悪化しています。原因は消費税が10%に上げられたこと、コロナ禍の長期化、急激な円安、電気料金・資材価格の暴騰等です。

 日本では正社員を一度雇用すると、企業側の都合で解雇することはとても困難です。

 また、法改正により以下の条件を満たすアルバイトやパートも社会保険・厚生年金に加入させなければならなくなりました。(※2024年6月20日午後補足:従業員数が常時100名以上の企業は既に加入義務がありますが、2024年10月からは常時51名以上の企業に拡大して適用されます。)

・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)
・学生ではない

 国としては保険料および年金原資を多く徴収したいのでしょうが、雇用主から見ると消費税率アップ以上の大増税です。ちなみに社会保険料および厚生年金は国およびその機関が強制的に徴収する金銭です。このため、これらは「税金」の一種と考えるしかありません。

 雇用主としては新規雇用を抑制し、さらにリストラを行うしかありません。上場企業も同様です。

 賃上げのニュースがあります。賃上げは世間からの批判を避けたいと考えた企業が、政府による要請もあり行ったものです。しかし、今後は賃上げと引き換えに不採算店舗・営業所の縮小や廃止が急ピッチで行われることが想定されます。今年の後半から猛烈なリストラが始まることが確実です。

 このような社会的状況なので、賃貸物件における家賃滞納事案は今後増加する恐れがあります。

滞納している賃借人の脅迫、実力行使は悪手

 賃借人が家賃を滞納した場合でも、家賃保証会社による家賃保証契約が締結されていれば、代位弁済を受けることが可能です。連帯保証人がいる場合は、連帯保証人に家賃を請求できます。

 しかし、2020年3月以前に賃貸借契約を締結した物件の中には家賃保証契約が締結されていない物件があります。特に契約更新を法定更新で済ませた物件の場合によくあります。このような物件で、何らかの事情により連帯保証人が無資力に陥っている場合、家賃の代位弁済を受けられないことがあります。

 家賃を滞納された際にオーナーが早朝や夜間に貸室を訪問し、ドアを叩いて大声で家賃の支払いを求める行為は悪手です。特に「今週中に退去しない場合は実力で追い出す。」等と告げて脅す行為は最悪です。

 まず、脅迫を行えば警察に通報される恐れがあります。郊外では警察官が賃借人に「家賃を払わないあなたが悪い」と逆に説諭することがあるようです。しかし、「反社の構成員に追い出してもらう」等の文言を使用すると警察からオーナーが反社会的勢力との繋がりを疑われる恐れがあります。

 また、賃借人が不在の際に室内の家財を運び出し、撤去する行為は「自力救済」であり違法です。後述しますが、オーナー様が不利になるので行うべきではありません。

 稀に管理会社がオーナーに「室内の物品を全て撤去し、廃棄します」等と連絡してくることがあります。しかし、賃借人の許可がない場合(通常は許可しない)は承諾しないことを強くお勧めします。後で事件化した際に管理会社が「オーナーの指示により家財を廃棄しました」などと主張することがあるからです。このように主張されるとオーナーが「住居侵入および窃盗の共犯」として疑われ、刑事責任および民事責任を問われることがあります。

 弱者救済を支援するNPO団体があります。賃借人がこのようなNPO団体に相談した場合、この団体の顧問弁護士が刑事および民事訴訟を提起することがあります。「家賃を滞納しているのだから弁護士を雇う資力はないはず」等と甘く考えるべきではありません。

 賃借人が「脅迫された」、「家財を撤去され、廃棄された」等と主張し、立件されると大事になります。また、自力救済による物品撤去は裁判所の心証を著しく害します。

 大抵は示談になると思われます。しかし、賃借人の退去を迫る以前の問題として数十万円~100万円超の損害賠償請求に応じなければならなくなります。過去には300万円余りの支払を命じた判例があります。

 当然ですが、実力行使により家財を撤去すると退去の要請が難しくなります。裁判所の心証が著しく悪くなるからです。明け渡し請求訴訟を提起した際の判決は、オーナーにおいて不利な内容になる恐れがあります。

※次回の投稿に続きます。