一定の年齢で高齢者の運転免許を返納させると不動産に影響

 最近、高齢者が運転する自動車による交通事故が大きく報道されています。高齢者が運転する自動車による交通事故は以前からありましたが、池袋における死亡事故以来、マスコミが大騒ぎしています。

 このため、「一定の年齢に達したことをもって運転免許を無効にしろ」という過激な主張をするインフルエンサーが現れています。

 確かに一般国道や高速道路等の逆走、アクセルとブレーキの踏み間違えは危険であり、大事故の原因になります。このため、高齢者ドライバーに対する認知能力テストが必要なことは言うまでもありません。しかし、一定の年齢に達したら一律に運転免許を無効にすると、生活できなくなる方が生じます。

 前述した主張においてすっぽり抜け落ちているのは、郊外の戸建住宅やマンションに対する需要が激減することです。需要の激減は不動産価格の暴落につながります。

 マイホームを購入する方の大半は、将来の住み替えを考えていません。高齢者になった後も終の住処として利用することを考えています。そして主にパワービルダーが大規模に開発して分譲した郊外の戸建住宅を購入し、居住している方が多くいらっしゃいます。なぜ多くの方が郊外の住宅を求めたのかというと「失われた30年」と言われる長期の不景気により収入が減少したからです。

 住宅が繁華街から離れ、公共交通機関を利用しにくい場合は車がないとコンビニ・スーパーでの買い物や通院が困難です。年齢を理由として車の免許を取り上げられたら買い物がや通院がとても不便になります。

 忘れているのは高齢者の家族および介護者の負担が激増することです。認知能力の問題がある方に運転免許を返納してもらうのは当然ですが、対象は最小限にするべきです。

 一定の年齢を超えたら車の運転を禁止するのであれば、公共交通機関の整備が必須です。公共交通機関として考えられるのはバス路線です。しかし、人手不足と採算性の問題から路線バスの運行本数は際限なく削減されています。

 静岡県のある街では平日の日中に15~20分間隔で運行されていた路線バスの運転間隔が1時間になりました。このままだと数年後には廃止されるかもしれません。これでは自家用車がないと生活できません。

不動産に対する影響

 公共交通機関の整備をせず、一定の年齢に達した全ての高齢者から運転免許を取り上げると郊外の空き家が猛烈に増えます。車がないと生活できないので利便性の良いエリアに転居するからです。転居する前に居住していた家は利便性が良くないので売却したくても売れず、空き家になります。

 少子化が進行していることもあり、これらの空き家を購入して住もうとする方は少ないです。終の住処に出来ない住宅には購入する価値を見いだせないからです。

 売却したくても売れない家は、やがて廃屋になります。長年の間に廃屋が並ぶ街になると、土地の価値が下がります。

 郊外の新築戸建住宅や新築マンションの建設需要は激減します。都心などの利便性が良好なエリアは開発し尽くされています。車を利用せずに生活できる、利便性が良好なエリアで新たな開発や分譲を行うことはとても困難です。ハウスビルダーおよびマンションディベロッパーの中には廃業または倒産するところがでてきてもおかしくありません。

 一定の年齢に達した全ての高齢者に運転免許を返納してもらうためには公共交通機関の整備が不可欠です。ところが行政は「公共交通機関の運営は民間に委ねるべき」との立場を原則としており、整備が進みません。

 少子化及び働き方改革による人手不足、および円安による燃料費の高騰は深刻であり、企業努力では解決できません。公共交通機関の運営を民間任せにするのではなく、国や地方自治体による財政支援などが必要と考えます。

 「一定の年齢に達した全ての高齢者に運転免許を返納させる。」というのは公共交通機関の整備を前提とした話であり、現状では時期尚早と言えます。