AIの発達により、不動産仲介業は消滅するか

 最近、ChatGPTに関する話題がネット上を賑わせています。今後、AIの発達により様々な産業が消滅するといわれています。

 不動産仲介業は、AIの発達により消滅する可能性が高いとする言説があります。その根拠は、不動産の内見は動画で代替でき、契約はネット通販での物品購入と同じようにマウスクリックで行えるようになるからというものです。

 「不動産売買および賃貸に関する契約はマウスクリック一つで行えるようにするべき。重要事項説明や契約書は画面表示だけで構わない。」とする主張が財界の一部にあります。「自動車保険や損害保険の契約はマウスクリックで行えるではないか。不動産も同じはずだ。」という論理です。

 しかし、不動産に関する契約は、保険契約とは根本的に異なります。物件探しも不動産業が行う重要な職務です。希望の条件を提示された場合、どの物件を紹介するかが不動産仲介業における腕の見せ所です。

 希望エリア内に物件が見つからない場合は、その近くのエリアにある類似の物件を紹介することになります。世の中に存在しない不動産を探している方にはその旨を伝える必要があります。AIがこれらを行うことは、かなり困難と思われます。

 不動産賃貸の場合は入居希望者が入居した際にトラブルを起こす可能性がないかを見極める必要があります。内見の際に暴言を吐いたり喧嘩腰の態度を執る方がたまにいます。あまりにも酷い場合は入居不可と判断しますが、この判断をAIに行わせることは困難です。

 また、不動産売買では住宅ローンの利用が前提になることが多いです。金融機関が提示する融資の条件はまちまちです。借入期間は購入希望者が考えているライフプランにより変わります。このため、利用する金融機関及びプランを購入希望者が選択してもらうのですが、全てAIで自動処理を行うことは極めて困難です。

 さらに価格交渉を行うことが通常です。「物件を内見したところキッチンユニットが古く、傷みが酷いので値引きしてもらいたい。」とか「住宅ローンを利用せずに購入するので値引きしてもらいたい。」等の要望がよくあります。値引き額に関する交渉が必要ですが、交渉をAIに委ねることは非常に困難です。

 不動産の売買契約書および重要事項説明書の内容は物件毎に異なります。特に中古物件の場合、同じ物件はほとんどありません。どの物件にも売買契約の特約があり、重要事項を購入希望者に理解してもらう必要があります。重要事項説明や売買契約書の説明をパソコンやスマートホンの画面表示だけで済ませたら「知らないで契約した。」などのクレームが激増します。

 内見を動画で行うことにも問題があります。AIが発達すれば、経年劣化による傷みが目立つ物件でも自動で動画を綺麗に修正する技術が登場すると思われます。「動画では室内が綺麗なのに、引き渡し後に図分の目で見たら室内の汚れが酷かった。」等のクレームが生じるでしょう。

 現時点では不動産に関する契約の全てをAIのみで対応することは無理に近いです。AIは今後ますます発達するでしょうが、どう考えても不動産仲介業が20年以内に完全に消滅することはないと考えられます。