郊外の戸建住宅を収益物件にすることの是非

最近、都心からあまり離れていない郊外の戸建住宅を購入し、賃貸戸建住宅として貸し出すことを考える不動産投資家が増えています。郊外の木造戸建住宅における売買成約件数は急増しています。

主な理由は以下の通りです。

・テレワークの利用が推奨されたことから「静かな個室」を求める方が増えた
・都心から電車で1~2時間程度で行ける場所でも、1,000万円以下で購入できる物件が多い
・マンションの場合に必要なエレベーター、オートロック関連機器のメンテナンスが不要

普段はテレワークを行う方も、多くは都心の会社に週1~2回程度出勤します。このため、都心まで行くのに長時間を要する場所は敬遠されます。東京では多摩、埼玉、千葉の戸建住宅に対する引き合いが増えています。

木造戸建住宅の賃貸事業がブームになりそうですが、今まで賃貸マンションの経営しか行ったことがない方、および不動産投資の初心者が安易に参入するのは危険です。以下の内容に注意が必要です。

1.物件価格が妥当かを判断しにくい
賃貸用マンション(1棟もの)の販売価格は利回りで決まることが大半ですが、戸建住宅の場合は、土地価格に建物価格を加算した金額が、販売価格の妥当性を判断するための重要な指標になります。土地の価格については、国税庁は公開している相続税路線価が参考になります。
リンクはこちらです。⇒ https://www.rosenka.nta.go.jp/

路線価は、整形地における1㎡あたりの価格を示しています。これは私の独自な計算法ですが、整形地で近くに嫌悪施設がない場合は路線価から算出された土地価格を1.4倍した金額が実勢価格になります。路線価が記載されていない道路に面している物件では、路線価が記載されている最も近い場所の路線価を参考にします。

郊外の場合、路線価が極めて安い場所があります。建物の価格は、木造の場合は20~25年でゼロになると考えます。利回りが良好でも、高値づかみをしてしまうことがあります。土地の本来の相場を再計算しておく必要があります。

利回りベースだけで考えることが出来ない理由は、「賃貸中」では売却しにくい(後述)という、木造戸建住宅の特性があるからです。売却時の査定は土地および建物価格の合計で行われることが大半です。

2.立地に注意が必要
郊外の場合、特に傾斜地では土砂災害が発生しがちです。崖地に建物がある場合で崖が崩れた場合、建物の所有者は工作物責任(民法第717条第1項)があるとして、損害賠償責任を負わされます。

崖の修復費用はもちろん、死傷者が発生した場合はその賠償責任も負わされますし、場合により刑事責任を問われることがあります。

激安で高利回りと思える戸建住宅でも、土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域、急傾斜地崩壊危険箇所、土石流危険渓流、地すべり危険箇所に立地する戸建住宅は購入しないのが賢明です。

3.内見は必須、賃貸中の木造戸建住宅を購入するのは危険
賃貸中の住宅に対する内見はできません。それでも、RC造の賃貸用マンションの場合には、内見が出来ない物件を購入しても致命的な不具合に遭遇することは極めて稀です。

一方、木造戸建住宅には外観よりも建物の傷みが激しい場合があります。購入に際しては室内だけではなく天井裏および床下を開け、基礎部分、柱および梁の状態を確認することが必須です。しかし、「賃貸中」の物件ではそれができません。

また、売主がリノベーションする際に、強度を保つのに必要な柱や梁を撤去した、部屋を増築した等の物件があります。RC造の賃貸マンションでは、その数は決して多くありません。しかし、木造の戸建住宅においてはよく遭遇します。

木造の戸建住宅を外観、登記簿、建築図面だけを参考にして購入するのは危険であり、空き家の状態で内部を確認しないと安心できません。

シロアリによる被害と雨漏りにも注意が必要です。シロアリは柱や梁を食い荒らすことから建物の強度が弱くなります。薬剤を散布してもシロアリの根絶は困難ですし、強度を回復できません。翌年になると再び発生することが多いです。

室内に雨漏りが発生していても、激しくなければオーナーにクレームを入れない賃借人が多いです。このため、オーナーが雨漏りの発生を知らず、雨漏りが長期間放置されることがよくあります。室内の雨漏りがそれ程ではない場合でも、室内の梁や屋根裏に激しい傷みが生じ、修繕に莫大な費用を要することがあります。場合により、物件の購入費用を超えることがあります。

繰り返しますが、木造の戸建住宅を購入する際には内見が不可欠です。空き家の状態で室内や屋根裏、床下をチェックし、問題が少ない物件を購入するべきです。そして修繕およびリフォームの後に不動産業者に客付けをしてもらうことをお勧めします。

内見をしないで木造の戸建住宅を購入することは危険です。

4.「賃貸中」では売却しにくい
前項に記載したとおり、「賃貸中」の物件は内見ができないので、建物の傷み具合がわかりません。従来から賃貸住宅による不動産投資を行っている方は、「賃貸中」の物件にはほとんど興味を示さない傾向があります。

このため、売却出来るのは賃借人が退去した「空き家」に限られます。賃貸中の状態で売却する場合は、大幅な指値を受けることを覚悟する必要があります。

5.建物の寿命が短い
木造戸建住宅の建物における寿命は最大で30年と考えるべきです。維持するための小修繕を頻度高く行えば、寿命を50年程度迄伸ばせる余地があります。しかし、賃貸中の住宅への立ち入りは余程の事情がなければできません。

賃借人に迷惑をかけずに実施できる修繕のみで建物を維持できるのは30年程度です。海風や山風が吹く立地の場合は25年程度と考える必要があります。

建物が老朽化した際は更地にして建物を再建築するか、更地で売却することになります。いずれにしても相応の費用が発生します。利回りが良好な物件でも、これらの費用をあらかじめ見込んでおく必要があります。

賃貸用の木造戸建住宅は安く購入できますが、建物の寿命が短いことが難点といえます。

6.滞納が発生すると、損害の割合が大きい
これは賃貸用区分マンションの場合と同じ問題です。
30室ある賃貸マンションの1室が滞納しても、1棟の賃料収入全体から見た割合は些細ですが、賃貸用戸建住宅で滞納が発生すると、その物件に対する賃料が丸ごと入金しないことになります。

賃貸用戸建住宅を1件しか保有していない場合、予定していた賃料の全額が入らないばかりか、固定資産税や都市計画税は持ち出しになります。融資を受けて購入した物件の場合は、オーナーが破綻する原因になります。

対策は、滞納が1年程度継続しても破綻しないだけの資金を用意しておくか、賃貸保証をつけるしかありません。賃料不払いを理由とした明け渡しを求める裁判を提起した場合、8~10か月を要することが多いです。

7.郊外の物件について、都心のオーナーが見落としがちなポイント
●動物による害
山間部では熊、鹿、イノシシ、猿、蛇による害が深刻なところがあります。
スーパー等で買い物をした方が食品をレジ袋に入れて歩いていると、猿に襲われることがあります。イノシシが1階の窓ガラスを割って侵入し、室内を荒らすこともあります。

イノシシや鹿が車の前に飛び出し、交通事故になる例が多くあります。注意して運転していても、予期せぬ自損事故に遭することがあります。

私自身の経験ですが、郊外の物件を調査するために道路脇を歩いていたところ、道路脇に生えている木の枝から蛇(マムシ?)が足下に落ちてきて驚かされたことがあります。地元の方によると、よくあるとのことです。

動物による害がどの程度あるかについては、地元の不動産会社に確認しておくことが必要です。あまりにも被害がよく発生する場合は、賃借人が早期に退去する原因になります。

●昆虫や蜘蛛による被害
代表的なのは蜂による被害です。スズメバチ等が建物の敷地内や屋根裏に大きな巣を作ることがあります。発見できた場合でも、巣が大きすぎると危険なため、直ちに駆除出来ないことがあります。駆除のプロの方でも駆除できず、冬まで放置して蜂がいなくなるのを待つしかないことがあります。

大きな蜘蛛が大きな巣を作ることがあります。場合により、建物内に侵入して歩き回ります。人間が攻撃しなければ、蜘蛛が人間を攻撃することは稀です。しかし、不快感を感じることは確かです。

蚊は都会よりも多く発生します。夏場に窓を開けていると建物内に蚊が侵入しますので、網戸を閉めておくことが必須です。

●雪
冬場における道路融雪に多額の費用が発生する物件があります。北海道、東北地方、甲信越に立地する物件の場合、融雪装置を稼働させないと住人が車で外出することができなくなるところが多くあります。

また、屋根の積雪が取り除かれなかったことが原因で屋根や雨樋を損壊することがよくあります。維持費はかなり多額になることが多いです。

●管理が困難
地元の不動産会社に管理を委託できる場合は問題ないのですが、物件まで遠距離の場合は自分だけで管理することは困難です。

●敷地内の樹木や草に関するクレーム
「枝が伸びてきて隣地を覆い始めたので何とかして欲しい」とか、隣の家の方から「日照不足の原因になるので伐採して欲しい」という要望が出ることがあります。