賃借人の保証主体は連帯保証人から家賃保証会社に変わる(その2)

昨日の投稿に書きましたが、令和2年4月に施行された改正民法により、連帯保証人が負担する保証債務に大きな制限が加えられることになりました。

連帯保証人になられる方には極度額を設定しなければならなくなり、第三者が連帯保証人になる際には公正証書の作成が必要になりました。これらは連帯保証人の保護を図るための制限ですが、これらの制限を設けることにより、賃貸物件のオーナーは民法が改正される前より不利な立場に置かれることは間違いありません。

しかも、改正民法は賃貸借契約の更新時にも適用されます。連帯保証人に対する極度額の設定は契約更新時に行う必要があります。極度額には2年分の賃料を設定することが多いのですが、連帯保証人になられる方にこの金額を提示すると、多くの方は連帯保証人になることを躊躇されます。

例えば月家賃8万円の物件の場合、2年分の賃料は192万円です。多くの方は「そんなに多額の金額を支払わなければならない可能性があるのなら連帯保証人にはならない。」と言われると思います。

連帯保証人を立てられないことから、家賃保証会社(賃貸保証会社、家賃債務保証会社とも言う)の登場となります。家賃保証会社を利用する際には、利用開始時に0.3か月~2か月の賃料相当額を保証料として賃借人になられる方が支払います。さらに1年毎または契約更新時に1~2万円程度を保証料として徴収するところが多いです。保証料の金額は、部屋の種類や家賃保証会社によりまちまちであり、仲介手数料のような明確な基準はありません。

従来は、この保証料の支払いをしたくない方が連帯保証人を立てており、家賃保証会社の利用を必須にすると、この保証料の支払いをしたくない入居希望者から敬遠されることから、不動産会社としては家賃保証会社の利用を積極的に勧めず、連帯保証人を立ててくれればそれで構わないとしていました。

しかし、今回の民法改正により、今後はほとんどの賃貸物件において家賃保証会社の利用を求められることになります。

家賃保証会社を利用することによるメリットおよびデメリットを以下にまとめます。

家賃保証会社を利用することによる、オーナー側のメリット
家賃保証会社では審査の際に、入居希望者の金融資産に関する情報、収入、家賃やクレジット返済における滞納歴、借金がある場合にはその内容と金額を調査してくれます。賃料の滞納を繰り返しているなど、入居させてはいけない方が入居申込書を提出した場合でも「入居審査の結果、お断り」という的確な判断ができます。

賃借人が賃料の支払をしなかった場合の督促を家賃保証会社が行い、滞納が何日も続く際には家賃保証会社が賃料を立て替え払いしてくれます。督促は、家賃保証会社が代行します。「滞納は絶対に許さない」というスタンスで督促し、督促を怠ることはまず考えられません。長期滞納者が出る恐れはとても少ないです。

督促の内容はかなり厳しく、滞納が2か月続くと賃貸借契約解除の準備(内容証明郵便の送付など)に入ります。賃料不払いを理由とした退去を求める訴訟を提起する必要が生じた際は、家賃保証会社および顧問弁護士の協力を得る事が出来ます。

家賃保証会社を利用することによる、オーナー側のデメリット
特筆するべきデメリットは無いと思います。

家賃保証会社を利用することによる、賃借人側のメリット
不動産会社が単独で行う入居審査では、水商売やアルバイトの方を敬遠する傾向があります。しかし、家賃保証会社の審査では収入と滞納歴を重視します。家賃保証会社の審査を通過した事実があれば、多くの不動産会社は、水商売やアルバイトの方でも入居を前向きに考えてくれます。

家賃保証会社を利用することによる、賃借人側のデメリット
家賃を滞納すると、滞納した事実が家賃保証会社が加入している団体のデータベースに登録されてしまいます。このデータベースは金融機関が利用する個人信用情報データベースと類似しており、個人情報、および家賃の滞納歴を記録しています。

一説によると、オーナーや家賃保証会社との間に何らかのトラブルが発生した場合には、その情報も記録されているようですが、データベースの仕様が公開されていないため、詳細は不明です。

通常、家賃保証会社は、(一社)全国賃貸保証業協会(LICC)、(公社)家賃債務保証事業者協議会(JPM)、(一社)賃貸保証機構(LGO)のいずれかに加入しており、これらの各団体では個別にデータベースを運用しています。その他にも、信販会社系の家賃保証会社は独自のデータベースを構築しているようです。

データベースは各団体に所属する家賃保証会社の間で共有されています。このため、家賃滞納が原因で退去した方が別の賃貸物件に入居する際に、別の家賃保証会社を利用しようとしても、データベースに登録されていることから入居不可になることがあります。

賃貸物件を借りる際に家賃保証会社の利用が必須になると、新たな社会問題が生じるかもしれません
家賃保証会社が加入している団体のデータベースに家賃滞納歴があると記録されている方はほぼ全ての賃貸物件において入居不可になる恐れがあります。近い将来において大きな社会問題に発展する可能性があるので、注視しています。