会社が倒産または廃業した場合、借り上げ社宅に居住する従業員はどのような扱いになるか
寒くなり、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めています。東京都では酒類を提供する飲食店に対する営業時間短縮の要請がなされました。忘年会シーズンに営業短縮を要請されることから飲食店は大打撃を受けることになります。残念ながら年末以降に多くの企業が倒産または廃業に追い込まれると予想されます。
賃借人が勤務する会社が倒産、または廃業した場合に、オーナー(賃貸人)は賃借人に賃貸物件からの退去や明け渡しを請求できるかという問題があります。
勤務先が倒産または廃業した場合、賃借人の給与収入はゼロになります。給与収入がなくなれば、直ちに退去を要求できると考えるオーナーがいらっしゃいますが、それは誤りです。
賃貸借契約を賃貸人が終了させることができるのは、「賃貸人および賃借人における相互間の信頼関係が破壊されたと認められる場合」になります。従って、賃料が長期にわたり滞納される等がない限り、退去を求めることは出来ません。
借り上げ社宅に従業員が居住している状況で勤務先の法人が倒産または廃業した場合、居住している従業員をどのように処遇するかが問題になりますが、従業員から賃料を徴収していたか否かで対応は変わります。
借り上げ社宅に従業員が居住していた場合(従業員から賃料を徴収している場合)
借り上げ社宅の場合、賃借人は勤務先の会社(法人)です。勤務先の従業員が居住しており、賃借人(勤務先の法人)が従業員から賃料を徴収している場合、その従業員は賃貸借契約に基づく転借人という立場になります。
賃借人(従業員の勤務先)と転借人(従業員)との間に定めた賃貸借契約の内容に従うことになります。しかし、この賃貸借契約が口頭のみで締結され、契約書が作成されていないことがよくあります。この場合、どのように対応するべきか悩むことがあります。
賃借人(従業員の勤務先)が賃貸借契約の解約を賃貸人(オーナー)に申し出た場合は、賃借人(従業員の勤務先)と転借人(従業員)との間の賃貸借契約も解約(合意解除)されることになります。
この場合は、賃貸人(オーナー)が転借人に、賃貸人(オーナー)と賃借人(従業員の勤務先)との間の賃貸借契約が合意解除されたことを転借人(従業員)に通知した時点で、転借人(従業員)に退去義務が生じます。ただし、退去には6か月の猶予期間が与えられます。
トラブルを回避し、なるべく空室期間を生じさせないためには特約を定めることを推奨
借り上げ社宅に関する賃貸借契約を締結する際には、賃借人(借り上げている会社)が倒産または廃業した場合における取り扱いを特約として定めて対応することにより、無用なトラブルを避けることが出来ます。また、転借人の属性が良好な場合(例えば、新たな就職先がすぐに決まった場合)には退去に伴う空室期間が生じる事態を避けられます。
私の会社で扱った事例ですが、以下の内容の特約(概要)を賃貸借契約に定めたことがあります。
・賃借人(勤め先)の倒産または廃業により賃借人が賃料を支払えなくなった場合には、転借人(従業員)の希望により、賃貸人(オーナー)による入居審査を経た上で賃貸人(オーナー)と転借人との間に新たな賃貸借契約が締結されるものとする。(転借人は賃借人になる。)
新たな賃貸借契約が締結された場合、賃料および敷金は以下の通りとする。
・倒産または廃業の日以降の賃料は、新たな賃借人(元従業員である転借人)から賃貸人に直接支払う。
・賃料は、賃借人(勤め先)が賃貸人(オーナー)に支払っていた金額と同額とする。
・新たに締結した賃貸借契約を更新する際には賃料を改定することがある。
・敷金の金額は、賃借人(勤め先)が賃貸人(オーナー)に預けていた金額と同額とし、新たな賃借人(転借人、元の従業員)から徴収する。
赤字で記載した箇所は、トラブル回避のために極めて重要です。民法が改正されたことから、これらを記載しないと、新たな賃貸借契約における賃料を、従業員が勤め先に支払っていた家賃の金額(通常は、勤め先がオーナーに支払っていた金額よりも極めて低い金額)にしなければならなくなります。
借り上げ社宅に従業員が居住していた場合(従業員からの賃料徴収がない場合)
賃料を徴収していない場合、勤務先の従業員は、勤め先の法人と従業員との間に締結された使用貸借契約に基づく転借人という立場になります。または、勤め先の法人と同一視できるとの考えも成り立ちます。
使用貸借契約の場合は、賃借人(勤め先の法人)が使用貸借契約の解約を転借人(従業員)に通知することにより即時に終了します。転借人(従業員)には退去義務が生じます。
後者の考えを採用する場合でも、賃借人(勤務先の法人)が賃貸人(オーナー)と賃借人との間に締結されている賃貸借契約の解約を申し入れることにより賃貸借契約は終了し、従業員には退去義務が生じます。
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