登記簿上の所有者と売主が異なる不動産を購入しても大丈夫か
不動産物件の調査を行うと、登記簿に記載されている不動産の所有者と売主とが異なることがあります。不動産会社から「私の会社が売主です」と言われ、購入を勧められた不動産の登記簿を調べたところ、売主は全くの別会社または知らない個人であるなどの場合です。
このような不動産を購入しても問題ないかについて解説します。
1.中間省略登記案件の場合
多くの場合、不動産業者間で転売され、最終的には中間省略登記による所有権移転登記を行うことを予定している不動産です。中間省略登記とは複数の不動産業者等が介在して売買(転売)を繰り返した場合に、大元の売主から最終的な買主に所有権が直接移転したものとして所有権移転登記を行う手法です。
この方法により、間に介在した不動産業者は登録免許税および不動産取得税の支払を合法的に免れることができます。
中間省略登記の流れは以下の通りです。ここでは最初の売主が価格3,000万円の不動産を売り出した場合についての例を書きます。
①売主:A氏 ⇒ 買主:不動産会社B
BはAから3,000万円で購入。AB間の売買契約書を作成し、Bは手付金100万円のみをAに渡す。
Bは、他人物売買の売主になる。
所有権移転登記は行わない。
②売主:不動産会社B ⇒ 買主:不動産会社C
CはBから3,300万円で購入。BC間の売買契約書を作成し、Cは手付金100万円のみをBに渡す。
Cは、他人物売買の売主になる。
所有権移転登記は行わない。
③売主:不動産会社C ⇒ 買主:不動産会社D
DはCから3,600万円で購入。CD間の売買契約書を作成し、Dは手付金100万円のみをCに渡す。
Dは、他人物売買の売主になる。
所有権移転登記は行わない。
④売主:不動産会社D ⇒ 最終的な買主:個人E
EはDから3,900万円で購入。DE間の売買契約書を作成し、Eは手付金100万円をDに渡す。
所有権移転登記はEが残額の3,800万円を支払った時点で、AからEに直接移転したものとして中間省略登記により行う。
⑤代金の分配
残額3,800万円のうち、最初の売主A氏が受領している手付金100万円を差し引いた2,900万円をA氏に渡す。更に残った900万円をBCDで分ける。
この取引を不動産仲介にて行った場合にBCDが得られる仲介手数料は、両手取引であったとしても186万円(税別)に過ぎません。しかし、中間省略登記を行うことによりBCDは各々300万円ずつ(均等に分配した場合)を貰える事になります。さらに、中間省略登記を行うことによりBCDは登録免許税及び不動産取得税の納税を回避できます。
より多い利益を得られることから、中間省略登記による売買を行う不動産業者は多いです。
2.中間省略登記の問題点
2-1.取引関係が複雑になりやすい
上述した例ではわかりやすくするために、中間に入る業者が全て売買取引を行う例を記載しました。実際には、不動産仲介として取引関係に立ち入る業者が存在することがあり、取引関係が複雑になることがあります。特に、大手の不動産会社(中間省略登記による売買を行いたがらない)が取引に関わる場合に多いです。
取引関係が複雑になると、購入手続き、または購入した不動産自体に何らかの瑕疵があった際に、誰が責任を負うのかがあいまいになります。
2-2.最終的な買主は、相場よりも遥かに高い金額で不動産を購入してしまう恐れがある
中間省略登記による売買が行われる不動産は、ほとんどが非公開です。不動産に関する知識が乏しい方においては相場がわからないため、高値づかみをさせられる危険があります。
2-3.中間に介在する業者のいずれかが悪意である場合、二重譲渡を行う恐れがある
上述した例ではBC間の売買契約が締結され、BがCから手付金を受領した時点でBは他人物売買の売主の地位を失います。しかし、Bが最終的な買主Fを見つけた際に、Bは自分が他人物売買の売主であるように振る舞い、売買契約書を作成し、AF間で所有権が移転した旨の登記を備えてしまうことがあります。
この事実を知らないCおよびDが自分に他人物売買の売主としての地位が移転したと誤認し、その後にEが代金3,900万円をDまたはAに支払ってしまうことがあります。この場合、AからEへの中間省略登記をしようとした際に登記所から所有権移転登記を拒まれます。
EがDまたはAから3,900万円を回収できれば良いのですが、DまたはAが悪意で行方をくらます、または倒産・破産した場合には回収できず、Eは多額の損失を被ることになります。
2-4.無免許ブローカーが取引関係に入る恐れがある
不動産売買を業として行う場合は、宅地建物取引業の免許が必要です。中間省略登記では、登記関係書類には中間として介在した者が表示されないことから、無免許ブローカーが取引関係に入る恐れがあります。
2-5.住宅ローン、事業用ローンのいずれも受け付けない金融機関が多い
中間省略登記案件では二重譲渡の危険があることから、ローンの利用を認めない金融機関が多いです。一部に認めてくれる金融機関がありますが、このような金融機関では不動産取引に介在する不動産業者の経営状況を精査します。
この一部の金融機関の方から私がうかがった話ですが、中間省略登記による不動産売買においてローンを適用する条件は、取引に介在する不動産業者の全てが上場企業または無借金経営であり、かつ介在する不動産会社が2社以下であることが必要とのことです。このため、ローンを組めないことが多いです。
3.対策
このような不動産の購入を持ちかけられた場合には、不動産を紹介した不動産会社に商流表を見せてもらうように依頼してください。商流表により、取引に介在する業者がどこなのか、大元の売主が誰なのかを明示してもらう必要があります。断わられた場合には、この不動産を購入しないのが賢明です。
また、ローンを利用した購入はできないことが多いことに注意が必要です。多くの場合、中間省略登記を利用して不動産を購入する際は、現金一括による購入が前提になります。
4.中間省略登記案件ではない場合
稀に、無権利者が所有者を装って不動産を売り出していることがあります。いわゆる地面師が暗躍する物件であることがあります。絶対に手を出してはいけません。
地面師の手口は狡猾であり、土地の売主代理としてお会いした人物が地面師であったことがあります。見破ったので騙されずに済みましたが、もし騙されていた場合のことを考えるとぞっとします。
地面師が暗躍している物件ではないことを確認する意味でも、商流表の確認が必要です。
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