飲食店が退去する際における厨房設備、什器備品について

1都4県では緊急事態宣言が発令されています。近日中に近畿および中部地方の各府県においても緊急事態宣言が発出される見通しであるとの報道がなされています。

※1月14日午前10時補足:1月14日より即日発出とのことです。

手持ちの現金がなくなったという理由により、残念ながら廃業を決断する飲食店が増えています。そして空店舗のオーナーや管理会社から私の会社に「新たに飲食店を開業したい方を紹介して欲しい」という要請が多く来ています。

残念ながら、コロナ禍が収束するまで、飲食店を新規に開店しようと思われる方はとても少ない状況が続きます。緊急事態宣言が2月7日で終了するのか見通せないことと、仮に終了しても営業時間の短縮要請または閉店要請が再び発出される恐れがあるからです。

営業時間の短縮に応じた飲食店に対しては一店舗当たり1日6万円の協力金が支払われるとのことですが、大半の飲食店において、店舗の賃料や人件費等には全く足りません。足りない部分については従業員の解雇や賃金カットで乗り切り、賃料の減額をオーナーに依頼することで賄うことで対応していた経営者が多いのですが、今回、再び緊急事態宣言が発出されたことにより、廃業を決断する飲食店が増えています。

通常、貸店舗では賃貸借契約中に退去の3か月(都心の場合は6か月のこともある)以上前に、オーナーに退去の連絡をしなければならないことが規定されています。このため、現時点では営業時間を短縮しながら営業を続ける飲食店が多い状況ですが、今後3~6か月を経過した時点で一斉に閉店する恐れがあります。

建物のオーナー(賃貸人)にとって問題となるのは、店舗内の厨房設備、什器備品、クロス、床等をどうすればよいかということです。賃貸借契約書には原状回復を求める一文が入っていることが通常ですが、退去の際には厨房設備や什器備品をそのまま残置し、床や壁クロスはそのままの状態で退去し、次に入居する方に委ねたいとの要望をされる飲食店オーナーが多くいます。原状回復に係る費用を支出したくないからです。

私は、原状回復の一文が入っている物件では原状回復を求めるべきであると考えます。厨房設備を設置したままにし、さらに什器備品を置いた状態で退去されると、後から店舗を開業する方が入居するとしても業種が限られるからです。例えば中華料理店の後に入居するのは中華料理店になりますし、カレー店であればカレー店にすることになりますので、次の入居者が決まるまでに日数を要する原因になります。

賃貸借契約書記載の内容に従うことになりますが、スケルトン返しが規定されている物件では厨房設備を全て撤去してもらい、什器備品の搬出はもちろん、壁クロスおよび床についてはスケルトン化してもらうことをお勧めします。食べ物特有の臭い、特に香辛料などの臭いが付着していることがよくあるからです。

飲食店を開業しようとする方の多くは店のレイアウトや什器備品のメーカー等にこだわりがあることが多いです。流し台や冷凍庫1つでも、使い勝手がよくないと思うものが置いてあれば撤去を求められます。飲食店専用の流し台や冷凍庫の撤去費用はかなりの金額になります。退去の際に残置を認めると、入居希望者が撤去を求めた際における撤去費用は建物のオーナー(賃貸人)が負担することになります。

また、建物のオーナー(賃貸人)におかれては、誰でも直ぐに営業開始できることをアピールしたいとして店舗のクロスや床をオーナー負担で新しくし、オーナーが厨房設備を設置し、什器備品を取り揃えた物件があります。しかし、前述したとおり、飲食店の経営者の多くは店のレイアウトや什器備品のメーカー等にこだわりがあり、厨房設備の使い勝手がよくないと感じた場合には入居してもらえません。

建物のオーナーには様々な考えがあると思いますが、建物のオーナーが飲食店の経営者であった経歴がある等の場合を除き、建物オーナーの負担でクロスや床工事を行い、オーナーが自ら厨房設備や什器備品を取り揃えることはお勧めしません。