土地権利が借地権である収益用不動産について

懇意にしている不動産会社の営業担当から「表面利回りが高い収益用不動産があるので、お客様に紹介して欲しい。」という話がありました。物件情報を確認したところ、土地の権利は借地権でした。

東京都区内で、駅からやや離れていますが販売価格が安く、表面利回りは10%以上もあります。このような物件を紹介された場合、注意しなければならない点が多くあります。

あくまでも私見ですが、敷地権利が借地権である収益用不動産の購入はお勧めしません。物件の立地が極めて良好である等、特段の優れた特徴を備えている物件の場合は綿密なコスト計算を行い、結果として十分な利回りが得られることが確認された場合に限り、購入するべきであると思います。

イニシャルコストが低いのですが、運用を続けいている間に生じる地代、および更新料を合計するとかなりの金額になります。売却する場合には名義変更料が必要になりますし、再建築の際にも承諾料が必要です。
これらをコストとして差し引くと、実質利回りは土地権利が所有権である場合よりもかなり低くなるのが通常です。

さらに、敷地権が借地権の場合、担保価値が低いものとして扱われます。この点からもお勧めしません。

表面利回りが良好でも、実質利回りが低いことが多い
借地の物件における利点は販売価格が安いことです。私の会社がある東京都の目黒区では、大半の土地において借地権割合は7割と決められています。この割合は、国税庁が発行する相続税路線価図に記載されています。

借地権割合が7割の場合、実勢価格(市場流通価格)の7割の金額を土地所有者(地主)に支払うことにより、借地権を購入できます。借地権を購入した方は地代を毎月支払うことにより、建物を建てて保有することができます。

収益用不動産をかなり安く手に入れることができますし、土地の固定資産税および都市計画税は地主が支払ってくれます。なお、建物に関する固定資産税および都市計画税は建物所有者が支払います。

しかし、注意しなければならないのは借地権の地代、更新料、名義変更料、再建築の承諾費用です。収益用不動産を売却する場合には名義変更料が必要になりますし、老朽化した場合に再建築する際にも承諾料が必要です。
これらをコストとして差し引くと、利回りはかなり低くなることが多いです。

地代
毎年支払う地代は、概ね以下の通りです。決して安い金額ではありません。
住宅地:固定資産税および都市計画税の合計額の3~5倍
商業地:固定資産税および都市計画税の合計額の5~8倍

更新料
旧法借地の場合は20年毎に更新時期になります。更新料の相場は、地域の慣習により異なります。私の会社がある東京の目黒区における更新料は、相続税路線価の8~10%です。

仮に相続税路線価÷0.8×1.1=実勢価格(市場流通価格)とします。そして、坪単価250万円(目黒区の住宅地における一般的な相場)、100坪の敷地について考えてみます。実勢価格は250万円×100坪=2億5千万円です。

相続税路線価は2億5千万円÷1.1×0.8=1億8,181万円になります。そしてこの8~10%が更新料です。
1億8,181万円×0.08=1,454万円 1億8,181万円×0.10=1,818万円 

更新料は1,454~1,818万円になります。旧法借地権の場合、これを20年毎に支払う必要があります。

名義変更料が高額であり、収益用不動産を売却する際に問題になる
売却する際の名義変更料は、借地権価格の1割程度です。相続の場合は、請求されないことが大半です。

上記の100坪の敷地では、250万円×100坪×0.7×0.1=1,750万円前後になります。東京都区内では、この名義変更料は売主の負担になることが多いです。

再建築の際には承諾料が必要
再建築承諾料は住宅の場合、土地の実勢価格の3~5%、鉄筋コンクリートの建物の場合は土地の実勢価格の10%程度と、かなり高額です。

担保価値が低く評価される
財務省、金融庁の方針により、担保価値を低く設定する傾向があります。借地権の担保価値として評価される金額は、財務省および金融庁の方針により、時期により変わります。少し前には大半の金融機関が担保価値ゼロと見做していました。

このため、敷地権が借地権の収益用不動産は、これを担保にして別の収益用不動産を購入するという手法をとることが困難です。この点からも、敷地権が借地権である収益用不動産の購入はお勧めできません。