売主が高齢者である不動産売買について
ご承知の通り、我が国は少子・高齢化が進行しています。2018年10月1日の時点で、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は28.1%に達しています。この割合は今後も増加し続け、2040年には35%、2055年には38%になると推測されているようです。(出典:内閣府作成資料)
最近、高齢者が自己保有の不動産を売却した際に、その高齢者の子や親族が不動産の売買契約の無効や取消を主張する事例が増加しています。
極めて安い価格で売却したとか、売却の理由や必要性が見当たらないとしてそのような主張がなされ、取引に関与した不動産会社が大きなトラブルに巻き込まれることがしばしばあります。
不動産取引を行う際には高度な判断能力が必要です。高齢者でも頭脳が明晰な方が多くいらっしゃいますが、判断能力が衰えている方もいらっしゃいます。判断能力が衰えている方、特に認知症に陥っている高齢者が不動産を売却した際に、子や親族から無効や取消の主張がなされることがあります。このため、不動産会社としては売主が高齢者である場合には特段の注意が必要になっています。
無効とされる、または取消が認められる場合
1.意思能力が無いことによる無効
契約を締結する際に意思能力が不十分で判断能力が全くないと言える場合には、契約の無効を主張できます。認知症を患っているために意思能力が無い場合等が該当します。
2.公序良俗に反することによる無効
高齢者が所有する不動産をあまりにも安い価格で買い取る行為等が該当します。例えば市場流通価格4,000万円の土地付き戸建住宅を不動産ブローカーが500万円で買い取る等の行為です。
3.錯誤無効
いわゆる「勘違い」です。市場流通価格4,000万円の不動産における価値を1,000万円と勘違いしていたことから1,000万円で売却した場合などが該当します。
4.詐欺による取消
例えば、上記の例で不動産の価値を1,000万円であると勘違いした原因が、悪徳不動産会社が「価値は1,000万円しかありません」などと告げたことにあり、1,000万円で買い取った場合等が該当します。
5.消費者契約法による無効、取消
契約の相手方が事業者や法人である場合に該当します。上記の2~4が該当する場合でも、取引の相手方が事業者や法人である場合は、消費者契約法による無効や取消を主張できることがあります。
意思能力が十分であれば公序良俗に反する行為をされず、錯誤をせず、詐欺行為をされても見破れることが多いので、多くの場合は被害に遭わずに済むと思われます。
この問題は、意思能力がない方が不動産取引をすることから発生する問題であるように思われます。
意思能力がないことの証明
確かに高齢者の子や親族が、不動産取引の無効や取消の主張をすることは法的には可能であり、裁判によりその主張が認められた事例があります。
しかし、契約当時に「意思能力がなかった」ことを証明するのは極めて困難です。契約書に本人の署名および捺印があれば、外形的には意思能力があったと推察されるので、その推定を覆すだけの証拠が無ければならないからです。
一般的に「ない」ことの証明は極めて困難です。いわゆる「悪魔の証明」です。
仮に高齢者が認知症を患っている場合でも、認知症の程度は千差万別です。中程度~重度の場合でも、外形的に健常者と同じ行動を行っている場合には、契約は有効であるとする判例が多くあります。
成年後見制度の利用
現状では、不動産売買契約が成立して決済が終わった後に無効や取消の主張をすることは極めて困難です。
判断の婦力が著しく衰えているため、不利な契約内容でも実行してしまう恐れがあると考えられる場合は、成年後見制度の利用をお勧めします。
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