賃貸借契約更新の際における連帯保証契約の取り扱い

賃貸不動産を扱う不動産会社は繁忙期の最中です。この時期は新たな賃貸住宅を探される方だけではなく、賃貸借契約を更新される方も多くなります。

新型コロナウイルス感染症が収束していないことから、今年の春は新しい住宅を探して転居する方はそれ程多くなく、従来から居住している賃貸物件の賃貸借契約を更新される方が多いです。

このブログでは何回も取り上げていますが、2020年4月1日より改正民法が施行されたことにより保証契約の取り扱いが変わりました。このため、賃貸借契約の更新を行う際に、従来から締結している連帯保証契約をどのようにするべきかについて、混乱が生じています。

改正民法の施行前に締結された連帯保証契約について
まず第一に問題となるのは、2020年4月1日より前に賃貸借契約を締結し、親戚や知り合いの方に連帯保証人を引き受けていただいた場合です。

賃貸借契約における連帯保証契約は、賃貸借契約に付随した契約として扱われます。通常、連帯保証契約を締結する際には連帯保証契約の期限を定める特約は設けません。このため、賃貸借契約が更新される場合には、連帯保証契約も更新され、連帯保証契約は引き続き有効とされるように思えます。

しかし、2020年4月1日に施行された改正民法では、連帯保証人に関する条文の文言が大きく変わりました。連帯保証人の引き受けを依頼する場合には、保証債務を履行しなければならない場合における最大の負担金額(これを極度額と言います)を告知し、賃貸借契約書または連帯保証人引受承諾書に記載しなければならなくなりました。

また、賃貸借契約が店舗または事務所等の事業用物件である場合は、借主が法人で事業主本人が連帯保証人になる等の一部の例外を除き、原則として公正証書の作成が義務づけられました。

連帯保証契約をそのまま有効として扱うかは、賃貸借契約の更新をどのように行うかにより変わります。

1.賃貸借契約を法定更新する場合
改正民法が施行された2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約の契約期間が満了した時点において、貸主および借主のいずれも契約条件を変更することなく契約を継続することを希望している場合は、新たな賃貸借契約書の作成を行わなくても賃貸借契約は自動的に更新されたものと見做されます。これを「法定更新」と言います。

賃貸借契約の更新方法が「法定更新」である場合における連帯保証契約は、従前通り有効なものとして扱われます。更新の時期が、改正民法が施行された2020年4月1日以降であっても、極度額(連帯保証債務を履行していただく際における最大の負担額)を連帯保証人に対し、告知する必要はありません。

なお、賃貸借契約を法定更新する際に、連帯保証人が連帯保証人を辞任したい旨を申し出ることは認められません。辞任する場合は、連帯保証人を引き受ける方を新たに探すか、借主が家賃保証会社を利用する必要があります。

2.賃貸借契約を合意更新する場合
改正民法が施行された2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約の契約期間が満了した時点において、双方が契約を継続することを希望し、新たな賃貸借契約書の作成を行う場合は、賃貸借契約は合意の上で更新されたことになります。これを「合意更新」と言います。

合意更新が適用される場合は、賃料の変更、その他の契約条件における変更の有無を問いません。新たな契約書が作成されれば、それは「合意更新」になります。

合意更新の場合、連帯保証契約は賃貸借契約更新の時点において、極度額(連帯保証債務を履行していただく際における最大の負担額)を連帯保証人に対し告知しないと、継続することができません。

2020年4月1日以降、連帯保証人を引き受ける方に極度額を告知しない場合、連帯保証契約自体が無効になります。改正民法が施行される前に締結された連帯保証契約であっても、賃貸借契約を合意更新するのであれば、更新の際に連帯保証人が負担する極度額を告知し、連帯保証人を引き受けられる方の承諾を得なければなりません。

この極度額は、実務上は二年分の家賃(共益費を含む)相当額とされているので、かなり高額になることがあります。例えば、家賃8万円の部屋でも192万円になります。

このような金額を告知すると「連帯保証人を辞めたい」と言われる方が多くいらっしゃいます。極度額を承知しない方に、連帯保証人を継続して引き受けていただくことは出来ません。

この場合は他の方に連帯保証人の引き受けを依頼するか、家賃保証会社との保証契約を締結してもらうことになります。連帯保証人の引き受けを他の方に依頼するとしても、極度額を告知されれば引き受けを拒む方は多いですし、借主が家賃保証会社との間に保証契約を締結することを選択すれば、家賃保証会社に支払う費用が新たに発生します。

このため、契約更新の際に改正民法の内容を納得できないと主張されるオーナーや借主がいらっしゃいます。不動産会社において改正民法の内容を説明するのは一苦労であり、悩みの種になっています。

賃貸借契約を合意更新する際に、連帯保証人を辞めることができるか
賃貸借契約の更新が合意更新である場合には、連帯保証人を引き受けていただく際には連帯保証債務を履行する際に負担しなければならない債務の極度額を告知して承諾してもらうことが必須です。告知内容を承諾できないのであれば、辞めていただくしかありません。

このため、賃貸借契約が「合意更新」で更新される場合には、賃貸借契約更新の際に連帯保証人を辞めることができると解されます。

しかし、賃貸借契約の更新が「法定更新」により行われる場合は、賃貸借契約の更新時期であっても連帯保証人を辞めることはできないと解されます。