賃貸マンションの家賃滞納者に対する管理会社の暴走に要注意(その1)
暴走する背景
家賃の出納業務を管理会社が受託している場合、賃貸マンションの賃借人が家賃を支払わない際には管理会社が最初の督促を行います。
督促しても家賃が支払われない場合において、家賃保証会社が賃借人と保証契約を締結している場合は家賃保証会社が督促します。保証契約が締結されていないものの連帯保証人が立てられている場合は、管理会社は賃借人および連帯保証人の両方に滞納家賃の支払いを督促します。
問題なのは、保証契約が締結されておらず連帯保証人が立てられているものの、連帯保証人が無資力に陥っている、または連絡が付かない場合です。このような場合は家賃の支払いを求める先は賃借人しかありません。
賃借人による家賃滞納が3か月継続した場合、裁判所に明け渡しを求める裁判を提起することになります。コロナ禍になる前は、滞納期間が3か月以上あれば、裁判所は訴状を受理していました。
しかし、現在はコロナ禍が拡大しており、家賃滞納の原因が新型コロナウイルスによる失業や解雇である場合は、裁判所書記官の判断により3か月程度の滞納では訴状を受理しないことが増えています。
このため、家賃滞納にしびれを切らしたオーナーの中には、管理会社に対して猛烈なクレームを入れる方がいます。「督促を満足に出来ない管理会社は無能力」「管理会社を変える」「家賃督促の能力が無いことをネットに書いてやる」等のクレームです。
担当者の携帯電話に対し一日に何十回もの電話をかけてクレームを入れる方や、管理会社の事務所を訪問して何時間も怒鳴りあげる方がいます。
管理会社の担当者による暴走
オーナーが猛烈なクレームを入れると、管理会社の担当者が上司に怒られることがあります。追い詰められた担当者の中には暴走する者が出ます。
暴走の程度が酷く、オーナーが黙認していた場合にはオーナーが責任を問われることがありますので注意が必要です。
多いのは、賃借人に対する実力行使です。賃借人に無断で玄関扉の錠前を交換して部屋に入れなくする、室内の家財を外部に搬出する、家財を捨ててしまう等の行為です。
明日の投稿において述べますが、「追い出し屋」を利用して賃借人を力ずくで室外に連れ出し、家財等を搬出することもあります。
玄関扉の錠前を賃借人に無断で交換するとどうなるか
賃借人が部屋に出入りできなくするために錠前を交換する担当者がいます。しかし、この行為はいわゆる「自力救済行為」として法が禁止する行為です。
賃借人に無断で玄関の錠前を交換する行為は、住居侵入罪に問われることがあります。「扉を開けただけであり、室内には立ち入っていないと主張すれば良いのではないか」と思われがちですが、賃借人が警察を呼ぶことがあります。
警察は民事不介入の立場ですが、錠前の交換は住居侵入罪に抵触する恐れがあります。このため、警察が管理者会社に対し、錠前を元に戻すように説得することがあります。この場合、管理会社が説得に応じて鍵を開け、賃借人を入室させることになりますが、賃借人が「室内の家財が無くなっている」と主張することがあります。
このような主張をされた場合、実際には家財の紛失がなくても警察から「窃盗行為が行われた」と判断されても仕方なく、窃盗事件として立件されることがあります。
冤罪を主張しても、後の祭りです。被疑者は錠前を勝手に交換した管理会社の担当者となります。鍵屋に依頼して錠前を交換した場合も、責任は管理会社の担当者となります。
錠前を交換すると、明け渡し請求をを求める裁判を提起できなくなる
賃借人に無断で錠前を交換すると、明け渡しを求める裁判を提起できなくなります。このことを知らないオーナー様が大変に多いので驚かされます。
オーナー様の中には「管理しているのだから、家賃を滞納する住人の部屋の錠前交換くらいしてもらいたい。」と言われる方がいらっしゃいますが、後のことを考えたら決して行うべきではありません。良心的な管理会社であれば、裁判を提起できなくなることを説明してくれると思います。
明け渡しを求める裁判において相手方に求めるのは「占有の移転(オーナーヘの復帰)」です。錠前を交換すると、裁判所は「占有を自力で移転した(回復した)」と見做します。「占有を自力で回復した以上、裁判所としては何もすることがない」と判断されることになります。
裁判における調停などの際に錠前交換の事実が明らかにされると、訴訟提起の理由が無いと判断され、最終的には「訴因がない」としてオーナーが敗訴します。すると、明け渡し請求を認める判決における最大の効力である「強制執行」を行ってくれなくなります。
「強制執行」をしてもらえないということは、家賃を滞納し続ける賃借人を、いつまでも居住させなければならないという最悪の結果を招くことになります。
さらに、室内に残置されている家財を搬出すると窃盗罪に問われることがありますし、勝手に捨てると多額の損害賠償を請求されることがあります。勝手に家財を搬出された賃借人が裁判で争い、オーナーに対する損害賠償請求を認める判決が下されたことがあります。
賃借人に無断で玄関の錠前を交換する行為は、絶対に行うべきではありません。管理会社から提案された場合でも断ることが賢明です。
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