金額が異なる売買契約書を作成し、融資を受けると身の破滅(その1)

今日は、業界用語で「かきあげ」と呼ばれる行為について書きます。

「かきあげ」とは金額が異なる二種類の売買契約書を作成することを言います。金額の高い方を金融機関に提出し、安い方を売主に提出するのが一般的な手法です。差額を買主が着服し、他の目的に流用するためにこのような行為が行われます。

ご承知の通り、住宅ローンの利率は事業用ローン、その他のローンよりも極めて低く抑えられています。住宅ローンによる融資を受ける際には購入しようとする不動産に抵当権または根抵当権等の担保権を設定します。不動産に対し担保権を設定することにより、返済不能などの事態が生じた際には競売などの手段で強制的に換価できるので、金利を低く設定できるわけです。

現況渡しの中古住宅を購入する際には、不動産の購入代金、税金等の諸費用の他にリフォームや設備の更新・修繕費が発生します。リフォーム、設備の更新、修繕については住宅ローンにおける低い金利が適用されず、やや金利が高く設定されたリフォームローンなどによる融資を受けることになります。金利が高い理由は、無担保であることによります。

このリフォームや設備更新、修繕に対応するローンは、利率がやや高いだけではなく、返済期間が短く設定されることが多いです。このため、毎月の返済額を押し上げる要因になります。このため、買主からリフォームや設備の更新・修繕費についても低金利かつ返済期間を長くできる住宅ローンを利用することができないかについて、相談を受けることがあります。

リフォームや設備更新、修繕以外にも、自家用車や宝飾品、美術品の購入費用についても住宅ローン融資を受ける際に借入金額に含めることが出来ないかを尋ねられることがあります。

その方法として、「金額が異なる二種類の売買契約書を作成し、金額の高い方を金融機関に提出し、安い方を売り主に提出すれば、差額をリフォームや自動車の購入費用に充当できるのではないか。『かきあげ』を行ってくれないか。」との要望を受けることがあります。

しかし、このような行為は確実に身の破滅を招きます。事実が露見した場合、金融機関は期限の利益が喪失したことを理由として貸付金の一括返済を求めます。

一括返済ができないと担保権が実行され、競売または任意売却により不動産が安く売却されます。売却した価格では貸付金を返済することが出来ないことがほとんどであり、不足する金額は別途請求され、返済義務を負うことになります。さらに、実際の販売代金よりも高額な金額を契約書に記載して金融機関に提出する行為は、詐欺および私文書偽造等の罪に該当しますので、刑事責任を問われることになります。

2~3年前迄は、「かきあげ」が行われても大目に見る金融機関が多かったようです。一括返済を求めた場合、担保権の対象である不動産は競売または任意売却により安値で売却されることから貸付金の全額を回収できないことがが多く、金融機関が損失を被ることが多かったからです。

しかし、現在はほぼ全ての金融機関が「違法行為は許さない。発覚した場合は全て法的措置を執る」という態度に変わりました。「大目に見る」のではなく「厳しく対応することにより違法行為を未然に防ぐ」という考えに立っています。なぜ変わったのかは、明日の投稿で書きます。「かきあげ」が発覚した際には、買主はほぼ確実に一括返済を求められます。

どのような場合に「かきあげ」の事実が発覚するかですが、税務調査や確定申告等で発覚することが多いようです。不動産を購入した場合、税務署は買主に購入資金の出所を尋ねることがあります。税務指導または税務調査が行われる際には売買契約書および金銭消費貸借契約書の提示およびコピーの提出を求められます。

その後、税務署は住宅ローン融資を行った金融機関に対しても契約書類の閲覧を求めます。売主および買主間で交わされた売買契約書記載の金額、金融機関に提出された売買契約書記載の金額、金銭消費貸借契約書記載の金額が異なると、金額が異なる理由について精査され、「かきあげ」が発覚します。

詐欺および私文書偽造等の罪に問われるかは、金融機関が被害届を警察署に提出するかによります。警察署に被害届が提出されると捜査が行われます。金融機関の被害額が大きい場合は立件され、罰金刑または懲役刑が科され、前科がつきます。

また、このような取引に関わった場合、不動産会社も事務停止処分、宅地建物取引業免許の停止・取消、その他の処分を受けることがあります。

契約書を金融機関に提出したのが売主であるとしても、不動産会社は虚偽の内容の契約書を作成したのであれば詐欺の共犯または幇助犯としての責任を問われます。不動産会社は宅地建物取引業の免許を停止または取消されても仕方ありません。

「かきあげ」による融資を受けると身の破滅を招きます。くれぐれも考えないでください。