事故物件の取り扱いに関する指針案が公表されました(その1)
賃貸住宅経営を行う上で、最も大きなリスクの一つは所有する賃貸物件が事故物件になることです。
物件内の一室で住人が自殺を図り、死亡したことから退去した場合、その部屋を次に貸し出す際には事故物件として告知しなければなりません。
ところが、人が死亡する際の態様は様々です。どのような場合に「事故物件」と見做すのかはあいまいであり、最終的には物件を取り扱う宅地建物取引業者の判断に委ねられてることが多いです。
居室内で自殺や他殺が発生した場合は明らかに事故物件になるのですが、老衰等の原因による自然死が発生した場合に「事故物件」とするかについては見解が分かれています。
階段からの転落や不慮の事故が発生して居住者が死亡した場合、および廊下や階段等の共有部で人が死亡した場合も見解が分かれています。
あいまいな部分が多いことから国土交通省において心理的瑕疵に関するガイドラインを作成することになりました。このことについては本ブログでも以前に投稿しています。
令和3年5月20日に、国土交通省より、「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」という名称の指針案が公開されました。
読売新聞記事から引用します。
※掲載社の都合により元記事が削除され、リンクが切れることがあります。あらかじめ御了承願います。
「事故物件」老衰・病死は対象外に…他殺・自殺は告知必要
読売新聞
2021/05/20 22:29
国土交通省は、前の入居者が自宅内で死亡した物件について、老衰や病死など自然死の場合に「事故物件」扱いとせず、次の借り手や買い手に告知する必要はないとする指針案を公表した。
事故物件になると賃料や販売価格が下がるとして、高齢の単身者に家を貸すのを嫌がる事例が相次いでいるためで、初めて国が告知基準を明確化する。
指針案では、自然死のほか、階段からの転落など日常生活に伴う事故死も、原則として告知する必要はないとした。
一方、他殺や自殺に加え、自然死でも遺体が長期間放置されて臭いや虫が発生した場合は、原則として告知が必要とする。賃貸物件の場合、告知が必要な期間は死亡から約3年間に限った。
人が死亡した物件については、慣例として不動産業者が募集ビラや契約書面で告知を行う場合が多い。ただ、業者によって対応に差があった。
指針案はこちらからダウンロードできます。6月18日迄、パブリックコメントを募集するとのことです。
概要は以下の通りです。引用した新聞記事の内容に補足します。
・ガイドラインの適用対象は居住用不動産であり、オフィスなどの事業用物件は適用範囲外
・他殺、自死、事故死(日常生活の中における不慮の死を除く)、原因が明らかではない死亡が発生した場合は事故物件とみなす。このため入居希望者、または購入希望者に対する告知義務がある。
・上項の「日常生活の中における不慮の死」とは自宅の階段からの転落事故、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥による死をいう。死亡の原因がこれらである場合には、告知義務はない。
・居住者が亡くなった原因が老衰、持病による病死のようないわゆる自然死である場合は、原則として事故物件とは見做さない。従って、入居者を募集し、または売却する際の告知義務はない。
・自然死や日常生活の中における不慮の死であっても、長期間にわたり人知れず放置されたことから室内外に臭気や害虫が発生し、特殊清掃が行われた場合は事故物件と見なし、告知義務が生じる。
・事故物件として告知義務が生じる場合、その期間は、死亡の時点から3年間とする。
・玄関、エレベーター、廊下、階段、バルコニー等の共有部における死亡事案は、日常生活において借主・買主が通常使用すると考える部分で発生した場合には告知義務の対象となる。
明確になったポイント
自然死である場合は、室内が汚れていない限り、事故物件にはならないことが明確化されました。従来、この点は見解が分かれており、「人の死亡が発生すれば、理由が何であれ直ちに事故物件」と見做す見解がありましたが、明確に否定されたと言えます。
また、告知義務を課す期間を「3年」と定め、明確に区切ったことも評価できます。
室内で人が死亡した場合、最初に入居した方にのみ告知義務があるとする見解を採用する不動産会社があります。また、告知義務の期間を定める不動産会社があります。この場合、告知義務の期間は地域によりまちまちです。2年、3年、10年、永久、その他と様々であり、現状は極めて不明確です。
ガイドラインとして正式に運用された場合の問題点
実務を行う上で問題になると思われるのは、赤字の箇所です。
例えば賃貸物件の一室で自殺が発生した場合、実務上は退去後に最初に入居する方のみに告知義務があるとされて、入居者が1~2か月程度で退去した場合でも、その次の入居者には自殺の事実を告げる必要が無いとされていました。しかし、このガイドラインが正式なものとして運用されると、3年間の告知義務が課せられます。
また、共有部における死亡事案については告知義務がないと扱われることが大半でしたが、ガイドラインが正式なものとして運用されると、3年間の告知義務が課せられます。
いくつかの問題点があります。これを書くと長くなるので、明日投稿します。
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