地方や郊外の戸建住宅を購入し、移住することについて

新型コロナウイルス感染症は、依然として拡大しています。大学の授業はリモートで行い、特に大企業では在宅勤務を主流にするところが増えています。

「毎日出勤する必要が無いなら、地方や郊外の戸建住宅を購入するのも悪くない。」と考える方が増えているようです。東京都内では、奥多摩にある戸建住宅の購入に関する引き合いが増えています。その理由は、何と言っても価格が都心よりも格段に安いことと、景観が良好な場所を選べることです。

「コロナ禍による不況が続きそうである。会社を解雇されないとしてもボーナスの不支給や大幅な賃金カットは避けられない。住宅ローンで都心の住宅を購入することは危険」と考え、さらに「在宅勤務であれば会社から遠くても構わない」とか「大自然の中でのびのびと生活したい」という思いが混ざり合い、地方や郊外への移住を検討するようです。

この流れが進行した場合、都心への一極集中は避けられますし、地域活性化に貢献します。国としては歓迎する動きであると捉えられるでしょう。

地方や郊外への移住を検討されている方は、都心と比べるとインフラ、交通、子供の学習環境における利便性が低いことを承知の上で移住を検討されていることと思います。しかし、移住後に後悔して都心に戻る方が多いことはあまり知られていません。

「こんなはずではなかった」と後悔される方が多いので、今日は、移住された方が都心に戻られる理由について書きます。いずれも、重要事項説明の際に説明されることはあまりないと思います。

1.医療機関に行くことが不便
医療機関に行くとしても、車の利用が不可欠です。高齢になると視力等の衰えにより車の運転が難しくなりますが、通院の頻度は増えます。郊外には、設備が整った病院が少ないのが実情です。

2.停電や道路不通の際に、復旧するまでに時間がかかる
電気は都心と変わりなく利用できると思われる方が多いのですが、違います。地方や郊外では台風や大雨の際には停電が頻繁に発生し、停電した際には長時間に及ぶことがしばしばあります。原因は倒木や送電鉄塔の損壊であることが多いです。停電の際はインターネットが不通になりますので、在宅勤務を行うことは出来ません。

また、悪天候による道路の通行止めがしばしばあります。雨量が一定量を超えると倒木、法面の崩落、崖崩れ、鉄砲水が発生することがありますので、道路は通行止めになります。特に多いのは倒木です。
雨が止んでも直ぐに開通するとは限りません。崖崩れなどが1箇所でも発生すれば、道路は復旧工事が終わるまで通行止めです。都心とは異なり、復旧工事には月単位の日数を要することがあります。

3.動物の害、および虫害が多い
害を及ぼす動物は主に熊、狐、イノシシ、鹿、猿、蛇です。害虫はスズメバチ、アシナガバチ、蜘蛛、蚊です。

人間が行う開発行為のために里山を狭めたことから熊が人家の周囲をうろつく事案が多発しています。遭遇した場合に危険であることは言うまでもありません。
狐は、家の周囲によく出没し、エキノコックス症を媒介します。
イノシシや鹿は、車の前に突然飛び出します。衝突した場合は車を壊しますし、運転者も怪我をすることがあります。伊豆半島では鉄道の線路を横切ったイノシシが電車にはねられ、鉄道が長時間不通になる事案が多発しています。
猿は人間を襲い、食べ物を盗みます。窓から侵入し、家の中を物色した上で食料を奪うことがあります。人間に遭遇すると襲いかかることがあり、怪我をすることがあります。
蛇はよく庭に現れます。小さい蛇は住宅内に侵入することがあります。マムシの場合は噛まれると危険です。
ハチは家の壁や天井の隙間から侵入し、大きな巣を作ることがあります。

私の経験を書きます。
お客様が所有する、郊外に建つ2階建戸建住宅のバルコニーにおけるわずかな隙間からスズメバチが侵入し、1階と2階との間の隙間に直径50cm以上の大きな巣を作られてしまいました。業者に撤去をお願いしましたが、侵入口からかなり奥に巣を造られており、中の様子がわからない上に、薬剤を噴霧しても届きにくい状態であることから、巣を直ちに撤去することは極めて危険であると判断されました。この場合は、秋まで放置するしかありません。秋まで多くのスズメバチが建物に出入りしますが、仕方ありません。万が一刺された場合にどうなるかを考えると、安心して寝ることは困難です。

蜘蛛は、都心では見かけない大きなサイズのものが多く生息しており、たまに家の中に侵入します。

4.近隣の方との人間関係
移住した場合、どうしてもよそ者扱いをされることがあります。そのような扱いを受けない場合でも自治会の集まりへの出席や祭り等への協力を要請されることは当然にあります。信仰する宗教がキリスト教であるとしても、神社仏閣に奉納するお祭り等の手伝いを求められます。また、若い方は地域消防団への加入を求められ、定期的に行われる消防訓練への参加が求められます。

また、川や区域、公共施設の一斉清掃等、都心では考えられない行事への協力を、自治会から求められることがよくあります。これらへの参加をうっかり断わると、地域の住民から制裁を受けることがあります。

都心に帰られる理由で最も多いのは上記の3および4です。地方や郊外への移住を検討されている方は、後悔のないよう、熟考されることを強くお勧めします。