賃貸物件の借主が退去予告日を過ぎても退去しない場合(オーナー様向け)

 賃貸物件の入居者募集を依頼された不動産会社、および管理会社において悩ましい問題の一つは、借主が退去日を決めた上で退去を予告しながら、退去日を過ぎても退去せずに居座ることです。

 東京都内における住宅の普通賃貸借契約では、大半の契約において退去の1~2か月前までに退去日をオーナーまたは代理人(管理会社など)通告することが定められています。賃借人が退去予告日に退去せず、居座っている状態が続くと、次の入居者を募集するスケジュールを組めないので悩ましいです。

 借主が、予告した退去日に退去しない理由は様々です。多い理由は以下の通りです。

・退去日に引っ越し会社の手配が出来ない
・気に入った引っ越し先が見つからない
・仕事が忙しく、家財の梱包が間に合わない
・新規内装リフォームをした物件への引っ越しを決めていたが、工事の遅れにより入居できない
・引っ越し先の入居者が、まだ退去していない
・親族が急逝し、対応に追われた

 更に困るのは、「退去予告日に退去できないなら、いつ退去するのですか。」と尋ねても明確な回答をしない方が多いことです。これでは次の入居者を募集することが困難です。

 不動産会社およびオーナー側から見た場合、賃借人に全責任があるとは言えない場合があることは否定しません。しかし、退去日を予告しておきながら退去しない理由の多くは賃借人の都合によるものであると言えます。

 民法618条および540条第2項は、賃借人が賃貸借契約の中途解約を申し入れた後における解約撤回は認められないことを定めています。

オーナーは具体的に、どのように対応すればよいか
1.賃貸借契約に特約を設ける
 普通賃貸借契約の場合、退去日を予告した以上、その日迄に退去するのは民法の規定に従い当然であるとして、賃貸借契約書の特約に「退去が遅れた日数については日割りの家賃の倍額(増額賃料)を徴収する」という内容を入れることが考えられます。

 この内容の特約を設けることは判例(東京高裁平25.3.28)が認めており、東京都内の不動産会社ではよく行われています。

 よりわかりやすい例を挙げます。

 月家賃6万2千円の物件において、8月20日に退去する旨の通告があったものの、実際の退去日が31日になった場合を考えます。

 8月1日~20日の家賃(日割り)は40,000円、21日~31日の家賃(日割り)は22,000円ですが、21~31日の賃料は2倍に増額した44,000円を徴収することになります。

 多くの場合、7月末に8月分の家賃1ヶ月分の62,000円を徴収していると思います。8月20日に退去した場合は8月1日~20日の家賃は40,000円です。20日に退去を完了した場合は差額の22,000円が返金になります。

 しかし、退去日が8月31日になった場合は21~31日の賃料(増額賃料)である44,000円を徴収することになります。よって、44,000円-22,000円=22,000円を追加で徴収することになります。

 退去の予告を受けた際に、退去日が遅れた場合は家賃を追加徴収する旨を伝えます。これにより、予告した退去日に退去せず、退去日を明確にしない事案をかなり低減させることが可能になります。

2.賃貸借契約が普通賃貸借契約であり、更新の時期が近い場合は更新料が必要になることを伝える
 普通賃貸借契約の場合、賃借人が退去を検討するのは更新日の少し前になることが多いです。

 賃借人には「退去日が更新日を過ぎた場合は更新料及び更新事務手数料がかかります。その他に家賃保証契約の保証料、損害保険料もかかります。1日過ぎただけでも、これらの支払いが必要になります。」と告げることにより、予告した退去日に退去せず、退去日を明確にしない方はかなり減ります。