「正社員制度」をなくすことによる不動産業界への影響
このブログでは政治的な話題をなるべく取り上げないことにしていますが、不動産業界に大きく影響を与える内容なので特別に取り上げます。
「同一労働同一賃金を制度化するのであれば、いわゆる『正社員』という制度をなくすべきである。」という論調が声高に主張されています。この主張には著名な大学教授や経済学者等が賛同しています。
将来的に政府がどのように対応するかは、現時点ではわかりません。
確かに「正社員」という制度を廃止し、全ての労働者を現在の「非正規雇用」と同じように扱えば、企業におけるメリットはかなり大きくなるように思えます。労働者を雇用する企業においては以下のメリットがあります。
・正社員を雇用する企業は法定福利費として健康保険料及び厚生年金を支払う義務があるが、正社員制度がなくなることにより、この支払が不要または低減される。
・企業は、労働者を必要なときに自由に好きなだけ採用し、好きなときに自由に解雇できる。
・ボーナスおよび退職金の支払が不要になるか、または大幅に低減できる。
・賃金は基本的に月給ではなく、日給または時給で支払うようになるので、正月やお盆、緊急事態宣言等で企業が休業する際には給与を支給しないことが可能になる。
・退職して欲しくない方は高給で優遇すれば、ほぼ無制限にサービス残業をさせることも可能になる。
しかし、不動産に関する問題として、以下の看過できない点があります。
・企業に勤める方の大半において収入が減少するので、多くの賃貸物件において賃料を大幅に下げないと入居者が決まらない事態に陥る。
・企業側が労働者を容易に解雇できるようになると経済的に不安定な賃借人が急増する。結果として家賃が滞納される事案が激増し、ホームレスが増える原因になる。
・家賃の滞納が増えることにより賃貸物件のオーナーも経済的に困窮し、多くの賃貸物件が安値で手放される。その結果、不動産価格が大きく下がるので資産価値が減少する。
・ほとんどの金融機関は、住宅ローンの成立要件として「正社員」であることを求めている。その理由は正社員であれば解雇される恐れが少ないからである。正社員制度が廃止されると、企業における勤め人の大半はいつ解雇されてもおかしくないことから住宅ローンは成立しなくなる。それどころか住宅ローンの制度自体が存続不能になる。
・住宅ローンの制度が存続不能になると自宅を購入できない方が大半になり、一生を賃貸物件で生活することを強いられる方が急増する。
・「自宅を購入できるのは定年を過ぎてから」というのが当たり前の世の中になる。
・自宅用不動産の購入および売却がほとんど行われなくなる。このため、建設業者および不動産会社の多くが廃業に追い込まれる。
「正社員をなくせ」という論調のブログや記事は数え切れないくらい多くありますので、このブログではいちいち取り上げません。
この考えを声高に主張しているのは大学教授、経済学者、一部の経済誌です。しかし、不動産に対する影響をどのように回避するのかを示しながら「正社員制度廃止」の主張を展開するブログや記事はほとんど見当たりません。
おそらく、国内の不動産業界および「衣食住」における「住」に対する影響を全く考えていないのでしょう。不動産業界に携わる者から見た場合、極めて底が浅い暴論であるとしか思えません。
このように書くと「不動産業者の既得権益を守りたいから正社員制度の廃止について反対しているのだろう。改革が大事だ。けしからん。」と思われる方がいらっしゃると思います。
しかし、私は正社員制度が廃止されると、企業に勤めている大半の方が自宅を一生購入できなくなる恐れが極めて高いことから反対しています。正社員制度の廃止は「改革」ではなく「改悪」ではないでしょうか。
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