不動産売買の観点から考察した45歳定年制の是非

 45歳定年制の導入をサントリーの社長が提言したことで、賛成派と反対派が対立しているようです。検索すると、WEBサイト、ブログ等に賛成および反対の観点から様々な投稿が見られます。

 しかし、この考えは世界的な潮流から完全に外れており、45歳定年制を導入しようものなら間違いなく世界中から物笑いの種になります。

 優秀な若い方は国内企業ではなく、高給で優遇してくれる外国企業に勤務するようになります。つまり、優秀な人材の海外流出につながります。外国を喜ばせるだけです。

 日本の労働関係諸法は定年を60歳以上にすることを定めています。「ウチの会社は45歳定年」などと言って強行すれば労働者から裁判で訴えられ、敗訴することは明白です。

 ところで「45歳定年制を導入した場合、企業に勤めている方が住宅ローンを組み、自宅を購入したい場合にどうするのか」、「間違いなく不動産価格に影響するが、どのように対処するか」という観点から論じている投稿は見当たらないのが現状です。

 正社員として大企業に勤めている方が住宅ローンを利用して自宅を購入することを考えるのは30歳を過ぎてからでしょう。若者は給与が低く抑えられているので正社員であっても頭金を貯めることが難しいからです。30歳になる前に住宅ローンを利用して住宅を購入する方は少ないです。

 都心またはその近郊で住宅を購入する際には20~35年の返済プランを立てるのが通常です。仮に30歳で住宅ローンを借りた場合、45歳までに返済できる方はほとんどいません。45歳までに返済する返済プランを設計しても毎月の返済金額が高くなりすぎるからです。必然的に、住宅ローンを利用して自宅を購入する方はいなくなります。

 それに45歳定年制が導入された場合、定年後の生活設計をどのようにするかを考えると貯金を考えるようになります。自宅の購入自体を諦め、一生を賃貸住宅で生活する方が大半になります。

 自宅用の不動産需要がなくなりますので、経済効果は大きなマイナスになります。分譲戸建住宅および分譲マンションの開発が行われなくなりますので不動産価格の大暴落につながります。

 需要がなくなるのは不動産だけではありません。家財道具や自家用車も需要がなくなります。そればかりか、近年問題になっている少子化に拍車をかけることになります。

 賃貸住宅の建築は増えるかもしれません。しかし、45歳定年制により国民の可処分所得が大きく減ることから賃料が安く、狭小な賃貸住宅ばかりになります。このような賃貸住宅は、スラム化する恐れがあります。

 もう一つすっぽり抜け落ちている点があります。45歳定年制に賛成する方は「会社に頼らない生活設計を45歳までに作り上げろ。副業を始めればよい。」と主張するのですが、若い正社員は時間にゆとりがなく、残業続きで副業を行う余裕がない方が大半です。それに、特に公務員および大企業は、社員の健康を維持するために兼業禁止規則を定め、副業を禁止しているところが多いです(つまり、全く「主張」になっていない)。 

 「社員の流動化を促進したい」という観点から賛成する主張がありますが、定年を45歳に定めた場合、定年を過ぎた方を再雇用する企業はほとんど無いと考えられます。仮にあったとしても、給与水準はもの凄く低くなります。

 「45歳の定年で退職した方は、中小企業が雇用すれば良い」とする主張がありますが、明らかに中小企業を差別する主張です。大半の中小企業において、求める人材は大企業と変わりありません。

 それに45歳で定年を迎えた方は、何を生業として生活すれば良いのでしょうか。事業を開始する場合には莫大な資金が必要です。それに事業の運営に携わった経験がない方が新規事業を始めた場合、その多くが数年以内に廃業または倒産しているのが実情です。

 「45歳定年制」は「正社員をなくせ」という主張と本質は似ています。いずれも机上の空論としか思えません。この話題だけで本を1冊書けそうですが、長くなるのでこのくらいにします。