賃貸中の収益用区分マンションを競売で購入する際の注意点(その1)

 1棟マンション、アパート、区分マンション等の収益用不動産の人気が急上昇していることから、競売による購入を検討される方が増えています。

 しかし、何らかの理由により収益用不動産の収支が悪化することがあります。収益用不動産を購入する際に利用した事業用ローンの返済が滞った場合には金融機関から任意売却するように迫られ、それでも売却できない場合は不動産競売にかけられることになります。

 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の大都市で1棟ものの賃貸アパートや賃貸マンションが競売にかけられることは滅多にありません。ほとんどは任意売却により売却されます。

 不動産競売にかけられる1棟マンション・アパートは、いわゆる事故物件、反社会的勢力の事務所がある物件、隣地との境界が確定していない物件、再建築の際に必要になる土地の改良工事の費用が莫大な物件が多いです。これらの物件を不動産業界に携わらない一般の方が購入することは無謀です。

 それ以前の問題として、競売で購入する不動産に対し、金融機関が融資を行うことはほとんどありません。購入できるのは、全額を自己資金で賄える不動産会社のみと言える状況です。

 以上の理由から、不動産業界に携わらない一般の方が競売で収益用不動産を購入する際は、ほとんどが区分マンションになります。賃貸中の収益用区分マンションは、1部屋当たり1~3千万円程度で購入できる物件が大半です。資金を蓄えてあれば、事業用ローンを利用せずに購入できる範囲内となります。サラリーマン等が副業として賃貸事業を開始する際に、収益用区分マンションの運営からスタートする方が多いです。

 収益用区分マンションの競売物件は、裁判所がインターネット上に公開しています。購入を検討する際に注意が必要な点を述べます。

 競売物件の場合、建物の外観、前面道路の状況などについては現地訪問により確認できますが、建物の内部に関する情報は裁判所が公開する現況調査報告書を参考にするしかありません。現況調査書を参照する際の注意点は以下の通りです。

1.入居者と物件所有者(賃貸人)との間に締結されている賃貸借契約の内容 
 普通賃貸借契約、定期賃貸借契約のいずれなのかと、契約日、契約期間、契約満了日を確認します。

1-1.収益用不動産に対する抵当権または根抵当権の設定日が賃貸借契約の前である場合
 賃借人は「担保権設定後の賃借人」となります。この場合、普通賃貸借契約および定期賃貸借契約のいずれも終了します。保証会社による家賃保証契約や連帯保証人による保証契約についても終了します。

 ただし、不動産競売が実行されたことによる所有権移転登記日より6か月は退去が猶予されます。退去の猶予期間中は、家賃相当額(賃料相当損害金)を競売の買受人(新所有者)に支払う必要があります。

 一旦退去してもらい、リフォームをしてから新たな賃借人を募集するのであれば、賃借人が退去するまでには最大で6か月を要することになります。それでも退去しない場合は、裁判所に引渡命令を発令してもらい、強制執行の申し立てをすることになります。

 なお、賃借人が入居の継続を希望し、競売の買受人(新しい所有者)において異存が無い場合は、双方の間で新たな賃貸借契約を締結することになります。新たな賃貸借契約の締結なので、以前の所有者が徴収していた賃料が相場よりも極めて低廉である場合は、常識的な範囲内で家賃値上げ等の交渉が可能であると思います。

 また、保証会社による家賃保証契約や連帯保証人による保証契約を改めて締結して貰うことになります。

 また、いわゆるサブリース物件では、管理会社が賃借人であることがありますが、この場合はマスターリース契約およびサブリース契約のいずれも終了します。このため、競売の買受人(新たな所有者)は直ちに管理に携わることになります。

 問題になるのは敷金の取り扱いです。競売の買受人(新たな所有者)が賃借人に敷金を徴収したいと申し出ても、敷金を二重払いすることになるので揉める原因になります。賃借人に対し、以前の所有者から敷金の返還を受けるようにお願いすることになりますが、以前の所有者は無資力に陥っていることがほとんどであり、賃借人は敷金の返還を受けられないことになります。

 結局、敷金ゼロとして新たな賃貸借契約を締結しなければならないことが大半です。

1-2.収益用不動産に対する抵当権または根抵当権の設定日が賃貸借契約の後である場合
 普通賃貸借契約、定期賃貸借契約のいずれでも賃貸借契約は存続します。賃貸人の地位が元の所有者から競売の買受人(新しい所有者)に移転するだけなので、賃借人に退去を要求しても応じてもらえないことがあります。仮に応じてくれるとしても、立退料を支払う必要があります。

 定期賃貸借契約は、契約期限が到来するまで存続します。普通賃貸借契約は、契約更新日に更新することになります。

 いずれにせよ、不動産競売が行われたことにより所有者が変わった旨と、家賃等の支払先をお知らせすることで足ります。

2.管理費および修繕積立金の滞納額
 区分所有法により、管理費および修繕積立金の滞納額は新たな所有者に支払義務が生じます。競売物件の場合、滞納額が異様に高額であることがよくあります。

 競売の売却基準額が異様に低額な物件では、管理費および修繕積立金の滞納額が何百万円にも達し、物件により1千万円を超えることがあります。このような状況は、管理組合および管理会社が正常に機能していない物件において発生しがちです。

 あまりにも多額である場合は、当該物件への入札を控えることが賢明です。

3.管理費、修繕積立金の金額
 なぜか、異様に高額な物件がたまにあります。想定賃料6万円程度の単身者用ワンルームであるにもかかわらず、管理費および修繕積立金の総額が毎月2万円を超える物件があります。

 管理費および修繕積立金の滞納額が多すぎることから大幅値上げを繰り返し、このような金額になったものと思われます。

 競売の買受人(新しい所有者)は、管理費および修繕積立金の他に固定資産税、都市計画税、室内設備の故障時における修繕費、退去の際におけるリフォームおよびハウスクリーニングの費用、新たな賃借人を募集するために不動産会社に支払う仲介手数料が必要です。家賃の出納を管理会社に委託する際は、その委託費も必要です。

 管理費および修繕積立金が著しく高額な物件は利回りが著しく低くなります。このような物件では管理会社および管理組合が正常に機能しているとは思えませんので、手出し無用であると言えます。

※明日の投稿に続きます。