環境的瑕疵について

 不動産の売買または賃貸借を行う際には、買主または借主に対し重要事項説明が行われます。取引の目的となる不動産に瑕疵がある場合は、重要事項説明の際に瑕疵の内容を告知しなければならないとされています。

 告知しなければならない瑕疵には、物理的瑕疵、心理的瑕疵、環境的瑕疵、法律的瑕疵の4種類があります。物理的瑕疵の例としては建物の損傷、雨漏り、隣地との境界に関する争いの存在、擁壁の損壊などが挙げられます。心理的瑕疵とは物件において人が一定の態様で死亡した場合に存在されるとする瑕疵です。法律的瑕疵とは建物が地域で定められている建ぺい率や容積率を超える状況で建てられている等の瑕疵をいいます。

 本日は、環境的瑕疵について書きます。なお、「環境的瑕疵は心理的瑕疵に含まれる類型の瑕疵である」とする見解がありますが、本日の投稿では心理的瑕疵とは異なる瑕疵であるとして述べます。

 環境的瑕疵とは、近隣に嫌悪施設がある、眺望が良くない、近隣にトラブルメーカーが居住している、工場の騒音が酷い、鉄道は自動車の通過音が酷い等、取引の対象となる不動産が置かれている環境において存在する瑕疵のことをいいます。

 嫌悪施設の例としては、反社会的勢力の事務所、風俗店、葬祭場、墓地、ゴミ処理場、いわゆるゴミ屋敷等があげられます。取引の対象となる不動産の近くにこれらの嫌悪施設がある場合は、告知しなければならないことが定められています。

 ただし、ここで問題があります、取引の対象となる不動産から嫌悪施設迄の距離がどれくらいであれば告知しなければならないか、具体的には100メートル以内、200メートル以内、500メートル以内等の基準が存在しないのです。常識として取引の対象となる不動産の向こう三軒両隣であれば告知しなければならないということは理解できます。しかし、それ以外の場合において告知するべきかは不動産会社の裁量に任されているのが実情です。

 反社会的勢力の事務所は公にされていないことが多いです。警察に照会しても、守秘義務を理由として回答してもらえないのが通常です。

 このため、不動産会社が調査を行うとしても限界があります。賃貸借契約または売買契約の成立後に「近くに反社会的勢力の事務所があることを知った。告知義務違反なので損害賠償を請求したい。」と言われても不動産会社には調査方法がないので、裁判になれば多くの場合に損害賠償請求は却下されます。

 騒音を発する工場、鉄道、大通りについては音の大きさが問題になると思われますが、具体的に何デシベル以上であれば告知する必要があるのかについても、何ら定められていません。

 近隣にトラブルメーカーがいる場合でも、その者がどのようなトラブルを発生させる場合に告知しなければならないのかがわかりません。夜中に大声で騒ぐ性癖を有する者がいる場合に告知するべきなのか、用がないのに訪問して呼び出す性癖を有する者がいる場合は告知の対象になるのか、誰にもわかりません。

 眺望が良くないとする瑕疵についても、どのような状態であれば「眺望が良くない」と判断できるのかが不明です。なお、「他の建物に遮られることなく山や海岸が見える」ことを条件とし「高層の建物が建築されることはない」と説明されたことから不動産を借りるまたは購入したものの、その後に高層の建物が建築されたために眺望が不良化したことが明らかである場合は、瑕疵の存在を肯定する結論になると思われます。

環境的瑕疵の存在を知らなかったとして契約した場合でも、損害賠償請求は難しい
 上述したように、多くの場合において環境的瑕疵の存在を肯定する基準は極めてあいまいです。「不動産会社から環境的瑕疵について告知されなかった。損害を賠償して欲しい。」等といわれても、不動産会社が環境的瑕疵を告知しなかったことが民法上の不法行為を構成するとは言えない場合が多いです。

 ただし、向こう三軒両隣に葬祭場などの嫌悪施設があることを告知されなかった場合、建物の前に高層の建物が建設されることはないと説明されたことから眺望が良好な物件を購入したものの、後で高層の建物が建築されたために眺望が不良化した場合は、損害賠償請求が認められる可能性があります。

環境的瑕疵の有無については、自ら調査するしかない
 環境的瑕疵があるとして不動産会社に損害賠償を請求する裁判を提訴しても、環境的瑕疵と言えるかの判断基準が曖昧であることから多くの場合に損害賠償請求は却下されます。

 近くに嫌悪施設がないか、騒音を発する工場や鉄道線路がないかなどについては現地を必ず訪問し、調査することをお勧めします。不動産会社に任せるだけでは後悔することがあります。