空室対策としての家賃の値下げは最後の手段(オーナー様向け)

 賃貸物件の空室が生じ、次の入居者を募集したい旨を管理会社に告げると、「今回の入居者募集に際しては家賃を値下げしましょう。その方が入居者が早く決まります。」等と言われることがよくあります。

 確かに家賃を値下げすれば、入居先を探している方の興味を引き、入居者を早く決めて家賃を得ることができます。しかし、賃貸物件に設定している家賃が付近の相場通りであれば、家賃の値下げは資産価値の減少に繋がるのであまり得策であるとは言えません。

家賃の値下げが物件の価値を下げる理由
 賃貸アパート、賃貸マンション等の収益物件の価値は、利回りにより決まります。利回りが高ければ物件の価値が上がりますが、利回りが低ければ物件の価値は下がります。家賃を値下げすると、物件の利回りが低くなるので物件の価値は下がります。

 現在、東京都区内における築15~25年程度の物件では表面利回りが5%前後になる価格を収益不動産の価値と見做しています。以前は8%前後でしたが、現在はかなり下がっています。

例えば、家賃8万円の部屋が10室あるアパートを考えます。年間の家賃収入は960万円(80,000×10×12=9,600,000)です。表面利回り5%と仮定すると、0.05で割った1億9千2百万円(9,600,000÷0.05=192,000,000)が価値となります。

 しかし、この部屋の家賃を7万5千円にすると、年間の家賃収入は900万円(75,000×10×12=9,000,000)になります。0.05で割ると1億8千万円(9,000,000÷0.05=180,000,000)になります。

 1部屋当たりの家賃を5千円下げた程度で、物件の評価価格は1,200万円(192,000,000-180,000,000)も下がります。

 管理会社または不動産会社に言われるままに家賃を値下げすると物件の価値を大きく下げることになり、将来において何らかの理由により売却したくなった際に大きな問題になります。

管理会社・不動産会社が家賃を下げたがる理由
 家賃の値下げはオーナー様の物件における財産的価値を引き下げるのですが、それでも次の入居者が早く決まることにより管理会社や不動産会社の対応に満足してしまうオーナー様が多いからです。満足されるオーナー様は、物件の価値が下がることを理解していないことが多いです。

 また、次の入居者がなかなか決まらないと、オーナー様の中には「管理会社を変える」とか「他の不動産会社に依頼する」などと強い口調で罵る方がいらっしゃいます。オーナー様から強いクレームが寄せられると、「家賃の値下げを提案して次の入居者を早く決めよう」という判断になりがちです。

 しかし、付近の相場よりも高額な家賃を設定しているのでなければ、家賃の値下げを提案されても断ることが資産防衛につながります。

空室対策として家賃を値下げしないのであれば、どのようにするべきか
 入居希望者に対し、家賃の値下げ以外の内容で何らかの提案をしなければならない場合は、敷金および礼金の金額で調整するか、フリーレント期間を設けることで対応することをお勧めします。家賃の値下げは最後の手段であると考えて構いません。

 礼金1か月・敷金2か月の物件の場合は礼金ゼロ・敷金1か月、ただし1年以内に退去する場合は敷金1か月分について全額を償却する旨の特約を設けることが考えられます。

 敷金ゼロ、礼金ゼロのいわゆるゼロゼロ物件の場合は、2週間~1か月程度のフリーレント期間を設けることが、早期の入居者決定に寄与します。

 敷金および礼金の調整、フリーレントで済むのであれば、賃貸物件の資産価値が下がることはありません。

 また、室内リフォームを丁寧に行い共用部の清掃をキチンと行う、設備が壊れている場合は直ちに交換または修理する、外壁が汚れている場合は塗装・洗浄する等の基本的なことが入居希望者の印象を良くし、入居希望者の早期獲得に繋がります。