任意売却物件は本当にお買い得か
不動産の購入を希望されるお客様から「任意売却物件のみを紹介して欲しい」とか「任意売却物件の一覧表が欲しい」と依頼されることがあります。その理由を尋ねると、多くの場合に「任意売却物件は相場よりも安いと聞いた」と言われます。
任意売却とは、住宅ローンなどの借入金の返済が出来なくなった場合に、抵当権または根抵当権者である金融機関の承諾を得た上で、不動産会社が仲介して販売することをいいます。競売が実行されると安値で売却されることが多いので、競売前の任意売却はよく行われます。
年末以降、住宅ローンを滞納した方の不動産に対する競売開始決定が確実に増えます。これに伴い任意売却により売却される物件が増えることが予想されます。
東京都区内では、任意売却における物件価格は市場流通価格の8割前後になることが多いです。確かに安いのですが、以下の難点があることはあまり知られていません。
1.値引き交渉の余地がなく、売却希望価格による購入の場合でも、その金額で購入できる保証がない
ほとんどの場合に、価格交渉はできないものとお考えください。
買付証明書を提出しても、その価格を全ての抵当権者・根抵当権者(通常は金融機関)が了承しなければ、競売の申し立てが取り下げられることはありません。
金融機関が最初に承諾していた金額による購入でも後で難色を示され、購入できないことがあります。
抵当権者が複数いる場合は、全員が承諾する必要があります。
2.住宅ローンを利用できないことがあり、現金一括払を求められる場合がある
不動産に関する問題(境界の問題、土壌汚染など)が購入後に判明した場合、その不動産の市場流通価格は大きく下がり、担保価値を下回ることがあります。
後述しますが、不動産の維持管理が十分に行われていない物件が多くあり、しかも現状有姿による引渡しになるため、購入対象不動産が任意売却物件である場合には住宅ローンの利用を拒否する金融機関が多いです。
3.建物の維持修理が行き届いていない物件が多い
売主に維持管理を行う資金がないことが大半であり、このために建物や設備の不具合が長期間放置され、買主において多額の修繕費を支払わなければならない物件が多いです。
4.現状有姿における引渡になる
基本的に現状有姿による引渡しになります。後で不具合が見つかっても、売主に修理等の対応を求めることは極めて困難です。売主において、手持ちの資金がないことが大半であるからです。
土地や戸建住宅の場合、隣地との境界が不明確である場合や土壌汚染が見つかることがあります。これらの場合でも売主による対応は期待できないので、買主の負担で解決する必要があります。
5.家財道具を片付けず、室内や敷地内に放置した状態で引き渡されることがある
売主において片付け費用を支出する余裕がないので、家財に対する所有権を放棄した上で、家財を建物内に置いた状態で引き渡されることがあります。
この場合、家財を廃棄することになりますが家庭ゴミとは見做されず、産業廃棄物として廃棄することになります。家庭ゴミの場合とは異なり、多額の費用を要します。戸建住宅の場合、100万円を超えることもよくあります。
6.明け渡しがスムーズにいかないことがある
抵当権が実行され、競売開始が決定されたことについて納得できない方がたまにいらっしゃいます。競売を回避するために任意売却を行うのですが、そもそも何故売却しなければならないかを理解できない方がおられます。このような方は、買主が売却代金を支払った後も居座ることがあります。
この場合、所有権は買主に移転していますが、占有権は依然として売主(前所有者)にあります。占有を解除して退去させるためには裁判を提起し、勝訴判決を得た上で強制執行をする必要があります。
売主には占有権があるので、居座られたとしても住居侵入や不退去という刑事案件とは認められず、民事上の案件と見做されるため、警察に相談しても対応してくれないことがほとんどです。
裁判の勝訴までに半年近くかかります。さらに退去させるために多額の費用(戸建住宅の場合150万円以上)を要することがあります。
7.腹いせに、売主が建物や設備を損壊することがある
半ば強制的に不動産を取り上げられることに対する腹いせなのでしょう。
引渡を受けた際に、売主による嫌がらせが発覚することがあります。
全ての窓ガラスを割る、室内のドアを全て撤去する、壁に大きな穴を開ける、排水管を利用できなくするためにモルタルを流して詰まらせる等をされることがあります。
8.区分マンションの場合、管理費および修繕積立金等の滞納額を購入者が支払わなければならない
区分所有法の定めにより、買主に支払義務があります。遅延利息を含めると100万円以上の滞納額があることがよくありますので、十分な調査が必要です。
任意売却の場合、通常は不動産会社が所有者と抵当権者・根抵当権者の間に入り、問題の解決に当たります。しかし、購入者が自ら解決しなければならない問題が必ず生じます。
それでも任意売却物件が欲しいという方は、自己責任でご購入いただければと思います。
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