重要事項説明書、契約書の完全オンライン化には相当の年月が必要
最近、不動産に関する雑誌記事やWEBサイト記事において、不動産DXに関する話題が取り上げられています。新型コロナウイルス感染症がなかなか終息しないことから、 対面で行われてきた業務をなるべく非対面で行えるようにし、アナログで行ってきた作業をなるべくデジタル化しようという動きが加速されています。
不動産業界の非対面化およびデジタル化を「不動産DX」と名付け、「これを推進しなければならない」という論調の記事が増えています。
現在行われている不動産の売買、売買仲介、賃貸借、賃貸仲介の手法は、多くの不動産業従事者の知識および経験を基にして長年の間に構築されたものであり、宅地建物取引業法、建築基準法などの不動産諸法、国土交通省の省令、地方自治体の条例において規定され、慣習として根付いています。条例および慣習については地域により異なる内容が定められていますが、法律および政令は全国共通のルールとして定められ、現在に至っています。
これらのルールの多くはパソコンやスマートホンが存在しない時代から積み上げられたものです。「不動産DXを直ちに進めなけれなならない」と言われても、 何から手を付けたら良いのかわからないのが現状です。
非対面で行う物件の内見を例として取り上げます。この場合、内見の方法として不動産会社の従業員が単独で物件を訪問し、物件内部を動画撮影してお客様にリアルタイムで送信する方法を採用する不動産会社があります。また、物件毎に10~15分程度の動画を撮影し、不動産会社の中で動画をお見せすることによる内見を実施している会社があります。
どの方法で行うかは不動産会社に任されています。統一された方法はありません。
不動産DXにおいて重視されているのは、重要事項説明書および契約書を紙に印刷しないで取り交わす、完全オンライン化です。
現在、重要事項説明については、Zoom等を利用してオンラインで行うことが認められています。なお、重要事項説明書および契約書(案)はあらかじめ不動産会社からお客様に送付しておき、重要事項説明の内容について了解した場合に署名および捺印をもらうことになっています。従って、現時点では紙に印刷する作業を省くことは認められていません。
2022年の9月からは、デジタル改革関連法が施行されます。これにより、電子署名を利用すれば紙の重要事項説明書および契約書を作成することなく不動産売買、売買仲介、賃貸借、賃貸仲介契約を、オンライン上で締結する事が可能になります。最大のメリットは、売買、および売買仲介の際に必要な印紙税を節約できることです。そして契約に伴う作業を完全に非対面で行うことが可能になります。
しかし、現時点では電子署名を誰でも自由に利用できる環境にありません。また、電子署名を取得するには費用が発生します。不動産会社においては会社だけではなく、宅地建物取引士個人においても取得する必要があります。
契約の当事者の一方または双方が個人である場合、大半の方は電子署名を利用できません。不動産売買を行った証拠の書類として紙に印刷された売買契約書の交付を希望する方は多いと思われます。このため、従来通りの紙に印刷した重要事項説明書および契約書(案)を利用する必要があります。
不動産DXですが、内容および運用ルールを業界内で統一する迄には何年もかかると思われます。数十年以上の年月を経て現在のルールが確立されたのですが、電子化はルールの変更に該当します。新たなルールを策定し、統一した基準の下で運用するためには気が遠くなるほどの年月を要すると思われます。
電子署名の導入費用が安くなり、一般に普及する迄の間、重要事項説明書および契約書については紙で運用する必要が生じます。重要事項説明書および契約書の完全オンライン化を実現するのは、かなり先になると思われます。
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